第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 第七話 第八話 第九話 |
第一話 夜の静寂をかき消すかのように、雨が降り注ぐ。一滴数十キロはあろうかという鉛弾の雨だ。 弾丸の雨粒は吸い込まれるように巨人の身体に突き刺さり、その鋼鉄の肉体を引き裂いた。 弾丸の飛来した方角と軌道がコクピット内の右側のサイドモニタに表示される。 位置は自分のちょうど真上だ。 コクピット内が緊急事態を示す赤いランプの光で埋め尽くされ、アラートがけたたましく鳴り響く。 どうやら先程の不意打ちで致命傷を受けたらしい。 傷を負った逃亡者は舌打ちを漏らし、襲撃者の攻撃から逃れるために、『もう一つの自分の身体』を揺り動かす。 再び降り注いだ鉛弾の雨粒は地面を穿ち、逃亡者の足取りを追うかのように爪痕を残した。 逃亡者は夜の帳を味方に付け、森林に逃げ込む。どうやら敵を撒く事が出来たようだ。 被弾した箇所を庇いながら移動し、どうにか身を隠すことに成功したが、このままではいずれまた発見され、アサルトライフルの餌食となるのは時間の問題だろう。 武装は先程の不意打ちの際に装甲の一部と共に吹っ飛んだ。現状ではこの機体に武装は残っていない。しかし、ここで武装転送プログラムを使用して武器を転送すれば、空間歪曲反応により発見されるリスクが非常に高い。 かと言って、このまま武装もなしに吶喊しても機体が穴あきチーズになるのは目に見えている。 逃亡者は、賭けに出た。 襲撃者の機体のメインモニタに空間歪曲反応と、その位置を示す座標が映し出される。 その方向に銃を向け、トリガーを引くとフルオートで弾丸が射出された。 空間歪曲反応は消えたが、それで敵が倒れたという確証はなかった。襲撃者は銃を構え直し、反応のあった座標へと慎重に進む。 すると、敵機体を示す反応が表示される。場所は自機の後方である。 襲撃者は機体を急旋回させたが、機体が向き直るより早く逃亡者の機体が体当たりをかました。 敵との距離が近すぎるためにアサルトライフルを撃てず、まともに体当たりを喰らい襲撃者の機体は転倒した。すかさず逃亡者は再度武装転送プログラムを起動し、右腕に巨大な爪を出現させた。空間の歪みから現れた爪は自動的に右腕に装着されていく。 襲撃者は機体の上体を起こし、逃亡者に向けて発砲するが、敵の動きが早く、当たらない。 逃亡者の右腕に搭載された爪が赤熱化し、襲撃者の胴体を薙いだ。装甲がひしゃげ、熱を帯びた金属片は紅に染まり、ぶち撒けられ激しく踊り狂う。襲撃者はもはや動かなかった。 逃亡者は、戦いに勝利したのだ。 「イイィィィィヤッホォォォォォォォォォォォォウッ!!!」 転送装置から歓喜の奇声が発せられた。その声が先程のゲームの勝利者のものである事は、その場にいる誰もが知っていた。 ドーム状の転送装置のハッチが開き、それぞれの機体のパイロットが姿を表した。 「見た?見てた!?今の俺の戦い!かっこ良かった?ねぇ俺かっこ良かったっしょ!?」 戦いの勝利にすっかり酔いしれ、浮かれてはしゃぎまくる少年。その少年を後頭部を、観戦していた少女が引っ叩く。 「あんた浮かれすぎ!!ほら、周りの迷惑になるでしょ!?」 二人のやり取りを見ていたもう一人のパイロットが口を挟む。 「そうだそうだ!!ちょっと勝ったくらいで調子乗んなバーカ!!」 「あ゛ぁ゛!?負けたのはオメーが弱いからだろーが!!」 「ンだとテメー!? やんのかゴルァ!!」 「やめれっつってんだろーがッ!!」 少女の鉄拳が二人の少年に振り下ろされた。二人が撃沈すると、先ほどの騒ぎが嘘のように周囲は静まり返っていた。お騒がせしてすみませんでしたと頭を下げ、二人を引きずりながら少女はゲームセンターを後にした。 アームド・ウォーフェア――――この時代において世界中の人々から熱狂的な支持を受けている、ネットの世界を舞台としたロボットによる戦闘ゲームである。世界各国のゲームセンターに筐体が存在し、世界中の人々が切磋琢磨し、日夜対戦を繰り広げている。 この戦いの舞台となるもう一つの世界――――インターネットが生み出した架空の世界だが――――は、人工物であるにせよ、現実世界同様に時間が流れ、自然も存在し、天候 四季の変化もある。 西暦2030年。インターネットの発展により、コンピュータが意思を持ち、自らを改修する事によって独自の進化を遂げ、やがてネットの中に『もう一つの世界』を生み出す事となった。 意志を持つコンピュータが人類にもたらした恩恵は計り知れない。そしてその恩恵の一つが、アームド・ウォーフェアにおいて使用される汎用ロボット『アームドロイド』である。 二人が復活すると、今日の戦いをまた三人で振り返る。 「しかしアレだな。今回の決め手は転送した武装を囮にしたあの作戦だな。勝海、お前よく毎回あんな作戦思い付くよな」 「文弥相手にただの力押しで勝てる訳ないしな。何か追い詰められると脳汁出まくるんだよ」 「何気に機体の相性も良かったしな。プルートの突撃をあれだけ使いこなせるんだもんよ」 「逆にお前は相性悪かっただろ。博打前提のドラゴンフライとか文弥には向かねぇもん。正直あの機体でよくあそこまでやったと思うわ」 「武装の引き運も悪かったしなぁ・・・・こればっかりは仕方ねぇけど」 「あんた達、ホントあのゲーム好きよねぇ・・・・毎日やってて飽きないわけ?」 「バッカおめー、巨大ロボットは漢のロマンだっつーの!!分かれよ葵!!」 「私は女だこのバカちんッ!!」 勝海と呼ばれた少年の顔面に葵の渾身の一撃が炸裂する。頬の肉が回転する拳に合わせてめり込み、地面に吸い寄せられるように仰け反り、叩き付けられる勝海。 それはわずか一秒足らずの出来事だったが、殴られた勝海本人には周囲の光景がひどくスローモーションに映った。 流石にやりすぎたと反省したのか葵と呼ばれた少女が手を差し伸ばす。 「ほら、さっさと立ちなさい。帰るわよ!」 勝海は葵の手を握って起き上がり、制服に付いた汚れを払って再び三人で歩き始めた。 この三人は保育園の頃からの幼馴染で、三人とも同じ高校に通っている。放課後は三人でゲームセンターに集まり、勝海と文弥でAWFをプレイし、葵はそれを観戦する。そして終わったらその日のゲームを振り返りながらそれぞれの帰路に着く、それが彼等の日課だった。 三人はずっとこんな日が続くと信じていた。少なくとも“あの事件”が起きるまでは。 ある日、三人は学校を終えたあと、いつものようにAWFをプレイするためにゲームセンターに集合していた。店内に入ると、いつも勝海達が集まる一角――――つまりはAWFの台の周辺だが――――が妙に騒がしかった。 勝海と文弥が人混みをかき分けて見てみると、いつもとは違う――――少なくとも、勝海達とは面識のない――――プレイヤーが戦っていた。対戦相手はこの店の常連の一人で、勝海達とも何度も戦ったことのあるプレイヤーだ。 機体は前者がグリフォン、後者はドレッドノートだ。グリフォンは重量級でありながら機動力と重装甲を両立し、ドレッドノートは逆に重量級としての性能を究極まで突き詰めた機体である。 特にドレッドノートは最も強い機体の一つとして挙げられ、初心者が使用すれば中級者とも良い勝負ができ、上級者が使用すれば、相手に絶望を叩きつけるという恐ろしい機体だった。 『ドレッドノートを見たら相手のパイロットを普段の二倍強いものとして見ろ』という格言もある。 実力もそこそこで、そう簡単にやられるようなプレイヤーではないのだが、やはり相手が悪かったのか、グリフォンの機動力に翻弄され、手も足も出せずに一方的にやられていた。 ドレッドノートはミサイルとマシンガンで固め、広い範囲をカバーし、相手を近付かせない作戦だが、大型のバーニアで直線移動時の移動力を強化したグリフォンの特性と扱いの難しい荷電粒子砲やパイルバンカーといった武装の特性を理解し、移動に専念するタイミングと攻撃を効果的に使い分け、一度も被弾する事なくドレッドノートを追い詰めていた。 やがて対戦相手のプレイヤーが降参を選び、見知らぬプレイヤーの勝利に終わった。 「オイ、次お前行けよ」 「何で俺なんだよ、お前が行けよ」 「ヤだよ、勝てる気しねぇもん」 彼の周囲ではこのようなやり取りが行われていた。男は半ば失望したかのように周囲を見回す。 「この程度か、話にならんな」 彼は吐き捨てるように呟くと、早々にその場を立ち去ろうとした。 「オイ待てよ!!今度は俺とやろうぜ!!」 気が付けば勝海は彼に呼びかけていた。圧倒的な強さを誇るプレイヤーと戦ってみたいという気持ちが勝海の中に煮え滾るマグマにように沸き上がる。 「オイ勝海、相手はドレッドノートを倒した男だぞ?止めとけって、お前の勝てる相手じゃねぇよ」 すかさず止めに入る文弥。葵もそれに続く。 「そうよ、だいたいいきなり勝負を挑むって不躾にも程があるでしょうが!」 その様子を見ていた先程の戦いの勝者がおもむろに口を開く。 「僕と戦おうというのか?君如きじゃ相手にならないね」 「ンなのやってみなきゃ分かんねぇだろーが!!」 勝海の反論に一拍置いてから彼は答えた。 「・・・・良いだろう、身の程を教えてやる。・・・・かかって来い!!」 勝海とその男は転送装置に入り、リンクシステムを起動させる。その瞬間、二人の体が光に包まれ、アームドロイドのコクピットに転送された。 「・・・・あーあ、行っちまったよ」 「ホント後先考えないんだから、あの馬鹿は・・・・」 二人はため息をつくと、諦めたようにゲーム観戦用の大型ディスプレイの前に陣取った。 文句は言いつつも勝海の実力があの男にどこまで通用するか、興味はあったのだ。 他のプレイヤー達もハイレベルな戦いがもう一度見られるというので、再び集まり始めた。 勝海と男は、互いにそれぞれのアームドロイドのコクピットに転送された。このゲームにおいてはプレイヤーが任意に機体を選ぶのではなく、互いに無差別に選ばれた機体を使用する。 今回選ばれた機体は、勝海がラプター、名も知らぬ男がコマンド・ブルだ。双方とも汎用性に優れた機種で、いかなる状況でもオールラウンドに戦える名機である。 二人は開始の合図と同時に武装転送プログラムを起動させた。空間の歪みが発生し、そこから出現した武装を機体に装着すると同時に距離を詰める二機。このゲームにおいては、ランダムで選出されるのは各人の搭乗機体でけではない。転送・装着する武装もランダムで決定されるのだ。 今回の戦場は見渡す限りの平地で、足元には背の低い草が生い茂っている。 特に悪天候なども見られず、機体を一回転させればそのまま周囲を一望で来てしまう程見晴らしが良い。高機動型アームドロイド向けの戦場と言えるだろう。 ブレードを装備した勝海のラプターが一気に踏み込み、コマンド・ブルに斬りかかった。 しかし、最低限の動きでこれを躱し、コマンド・ブルがラプターにマシンガンの連射を浴びせる。 「初っ端からコレか・・・・気合入りすぎて逆に空回りしてねぇか?あいつ」 「ちょっと勝海ーッ!!あんだけ啖呵切ったんだからしっかりやりなさいよ!!」 勝海と何度も対戦した事のある文弥は、その操縦の仕方から勝海の心理状態を敏感に読み取っていた。葵は他の観客に混じって勝海に激を飛ばしている。 最初の一撃を避けられ、手痛いしっぺ返しを受けたが、勝海の闘志はむしろ高まっている。 「どうした?威勢が良いのは口だけか?」 「冗談ッ!まだまだこれからじゃねぇか!!」 勝海のラプターは一旦距離を取り、ブレードを構え直した。その間に男は再度武装転送プログラムを起動し、アサルトライフルを開いているもう片方の腕に装備した。二挺拳銃となったコマンド・ブルがラプターに向けて続けざまに左右の銃を撃つ。 適切な距離を保ちつつ、尚も追撃する男に、勝海は攻め倦ねていた。相手の攻撃に対して一旦距離を取ってしまったことが、逆に相手に攻める隙を与えてしまった。これは勝海の戦術ミスだ。 フィールドは起伏に乏しく、身を隠せるような障害物もない開けた場所だった。一旦態勢を立て直すにしても、相手の攻撃を振り切るのに一苦労である。 勝海は新たな武装で戦局を打開できないかと武装転送プログラムを起動した――――が出てきた武装は装備した側から次々とピンポイントで撃ち抜かれ、機体本体にもダメージが溜まり始めていた。 「やはり口だけだったか・・・・さっさと終わらせよう」 そう言って彼のコマンド・ブルが両手の銃を構えたその時、勝海は奇跡を起こした。 彼が武器を構えた直後、勝海が引き当てた武装は追加ブースターだった。ラプターの背面に大型のアフターバーナーが装着され、引き金が引かれる直前に点火し、凄まじい勢いで加速しコマンド・ブルの目前に迫る。役目を果たした追加ブースターが自動的にパージされ、空中分解を起こした。 「なるほど、そこそこ運は良いらしいな・・・・」 コマンド・ブルの射撃は的を外し、その隙を狙って左腕のアサルトライフルを両断する。まだ彼の機体には右腕のマシンガンが残っているが、距離を離したところで再び追い詰められ、いずれそれも壊されるだろう。即座にそう判断した彼は武装を転送と同時に装着し、次の瞬間にはラプターに格闘戦を挑んでいた。コマンド・ブルに装着された武装はトンファーだった。 勝海はトンファーによる打撃をブレードでいなした。しかし、ガラ空きになった胴体めがけてマシンガンが叩き込まれる。ゼロ距離からの射撃でラプターの胴体装甲の大部分が剥がされ、その被害はセンサー部分にまで及んでいた。メインカメラが損傷したのか、ディスプレイの表示にノイズが走る。しかし、それでも勝海は諦めなかった。 ラプターはよろめいた状態から無理矢理ブレードを振るい、マシンガンに当てた。その刃は銃身を深々と貫き、もうマシンガンは使いものにならない。そのままの勢いで振り抜いた刃を地面に突き立て、体勢を立て直す。 男は再びトンファーの打撃が加えるが、それに対し勝海は地面からブレードを引き抜いた勢いを利用して再びブレードを振るい、それがトンファーと重なり、丁度鍔迫り合いの格好となった。 互いに一旦離れ、すぐさま二合目を打ち込む、男はその打ち込む直前に再び新たな武装転送し、二合目が重なりあったその瞬間にラプターに散弾を撃ち込んだ。 彼が新しく手にしたのはショットガンだ。近距離戦用の射撃武器だが、散弾ゆえに高い命中率を誇り、至近距離から撃ち込んだ場合、全弾命中時の破壊力はマシンガンとは比べ物にならない。 おまけに、コマンド・ブル自体が格闘よりも若干射撃を重視した設計の機体で、射撃時に相手へのダメージをより効率的に与えられるように調整が為されているのだ。 「勝海の奴、だいぶ焦ってんな・・・・」 少し前にゼロ距離射撃を食らったばかりなのに、また同じ事を繰り返してしまった勝海の焦燥を感じ取った文弥は、もし自分が勝海の立場ならどうするか、考え込んでいた。 普段はおちゃらけていて、勝海同様調子に乗りやすい面もあるが、対戦時等は一度スイッチが入ると戦術家としての才能を発揮し、慎重な立ち回りと的確な判断力で自らの短所をカバーする、軍師としての一面を持っている。この男は普段とAWFプレイ時で全く違う顔を見せるのだ。 「考え込んでる場合!?このままじゃ勝海が負けるかも知れないのよ?」 「いくら応援したってどうせコクピットまでは届かないからな。なら俺はあの戦いを参考に俺ならどうするかを考えるまでだ」 感情的な葵に対し、冷静に返す文弥。勝海があの男にやられっ放しなのが悔しくない訳ではないのだが、前の戦いを見る限り、相手は相当の実力者であり、元より勝ち目の薄い戦いなのだ。 ならば目の前の戦いの結果に一喜一憂するよりこの戦いをしっかりと見届け、戦術研究の参考にする方が余程有意義である。勝海の戦いを無駄にしないという意味でも―――― 勝海は勝機を見出せずにいた。距離を取れば先ほどの二の舞となり、攻める機会を失う。このまま打ち合っていても、またトンファーでブレードを弾かれショットガンのゼロ距離射撃を食らう。次にあれを食らえば確実に墜ちる。武装を転送しても相手の手元にショットガンがある以上、転送した瞬間には撃ち抜かれていると思って良い。尤も、武装ではなくラプターを撃つ可能性もあるが。 考えに考え抜いた結果、勝海は思い切って距離を取った。これ以上被弾しないようにあの男のコマンド・ブルを警戒しつつ、全速力でその場を離脱する。 「ただの猪武者かと思ったが、そうでもないのか・・・・どのみち無駄だとは思うがね」 男も勝海を追撃する。適切な距離を保ちながらショットガンを撃つ。辛うじて避けられるものの、回避するので精一杯で武装を転送している暇はなかった。 相手に油断や慢心があれば、あるいはその隙を突く事もできただろう。しかし、彼からはそういったものは微塵も感じられない。少しの油断がAWFにおいては命取りになる事は、このゲームのプレイヤーならば誰でも知っている事だ。 恐らく例の人を見下したような発言も、冷静に相手の実力を分析した結果なのだろう。 この戦い、自分が負けるであろう事は勝海にも分かっていた。この実力の差は戦いの中で嫌という程痛感した。もうどうにもならない。ただ、何も出来ずに負けるのは我慢出来ない。 せめて一矢報いるにはどうすれば良いか、勝海は全神経を集中し打開策を練った。 勝海は覚悟を決めた。コマンド・ブルの方に向き直り、ブレードを構えて突進する。 「逃げたと思ったらまた突撃か。芸の無い奴だ」 「そうかよ、だったらこいつをくれてやるッ!!」 男は再びトンファーでブレードを受け止め、ショットガンを食らわせようと構えた。 しかし、ラプターは攻撃に移る直前にブレードを持ち直し、左腕のショットガンを腕ごと斬り払った。 「何ッ!?」 斬られた左腕は宙を舞い、ショットガンを手放し地面に叩き付けられた。 数秒遅れてショットガン本体も左腕より少し離れた場所に落ちた。 驚く男。しかしすぐさま冷静さを取り戻し、ブレードの防御にと構えていたトンファーでとどめの一撃を見舞った。突撃の直後で姿勢を立て直すのも困難な勝海は回避も能わず、土手っ腹に直撃を受ける。ラプターの機能が完全に停止し、崩れ落ちた。 「まさか、今際の際に一矢報いるとはね・・・・」 結果としては、勝海は彼に敗北した――――しかし、最後の最後で見せた男の意地が観客席を大いに沸き立たせていた。 「すげぇ!!あいつに一発かましやがった!!」 「しかも腕一本丸ごと持ってったぜ!こいつぁ快挙だ!!」 勝海の健闘を称える大歓声が尚も辺り一面を支配している。文弥は葵が感極まってか、顔が真っ赤になっているのを見て、少しからかってみようと思った。 「おやおやぁ〜?どしたの葵ちゃ〜ん、もしかして勝海の頑張りに感動しちゃったのかな〜?」 「ち、違うわよ!別にあいつの事なんか何とも思ってないんだからねッ!!」 「はいはいツンデレ乙」 お約束の台詞に思わず苦笑する文弥。先程までの戦術家としての顔はすっかりなりを潜め、いつもの文弥に戻っていた。 そろそろこちらの世界に再転送されてくる頃だろうと皆が待ち構えている。しかし、勝海もあの男も一向に戻って来る気配がない。心配になった葵は係員を呼び、転送装置のハッチを開けてもらう。すると転送装置を開けた瞬間に時空の歪みが発生し、覗き込んだ文弥と葵が歪みに吸い込まれてしまった。 それを見ていた観戦者達はパニックに陥り、ゲームセンター内は一時騒然となった―――― |