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第五話

勝海、文弥、葵、そしてリンファの機体の修理が終わり、勝海達三人は、元の世界に戻る 手がかりを見つけるために準備が整い次第、村を旅立とうとしていた。

それぞれの機体をリンファが修理している間、葵は文弥からアームドロイドの操縦訓練を 受けていたり、勝海は好奇心の赴くままに村の中を探検していたりと、思い思いに過ごしていた。

葵は筋が良く、元々運動が得意だったのもあり、すっかりアームドロイドの乗り心地にも慣れ、 操縦法も完璧にマスターしていた。

『どうせならカツミも付いて教えてあげればよかったのにねぇ』

『いや、あいつは人にモノ教えるのは向かねぇから。却って葵を混乱させちまうぐらいなら 適当に遊んでて貰った方がいいさ』

『ンだとてめぇ!?俺の教え方の何処が悪いってんだよ!!』

『おめーは何でもかんでも感覚でやってるからだろーが!!擬音とか効果音で言われても そもそも説明になってないんだっつーの!!』

『バッカおめぇ、それは俺の余りにもハイセンスすぎる教え方にオメーらが付いてこれねぇ だけじゃねーか!!自分のアホさ加減棚に上げて人のせいにしてんじゃねぇ!!』

『テメーがハイセンスなんざどの口が言いやがった!?お前がハイセンスならこの世界含めた 全世界の人間がアーティストだバカヤローッ!!』

『あぁ〜、なるほどね・・・・』

二人の余りにもレベルの低い喧嘩を目にし、しみじみと口にするリンファ。

『ごめんね、こいつら昔っからこんな感じでさぁ・・・・』

『別にいいよ。それにさ、三人とも小さい頃から一緒で、お互いの事何でも知ってるんでしょ? ちょっとキミ達が羨ましいなぁ』

『リンファはそういう友達、いないの?』

『歳の近い人は殆どいないね。殆どがおっちゃんかおばちゃん、それかボクより小さい子達 ばっかりだったし。若いのは皆出稼ぎで都会の方に行っちゃっててね。最近はちょっとずつ 戻ってきてるみたいけど』

『戦争の影響、か・・・・』

機体を修理している間、リンファからこの世界の事を聞く機会が多かった三人は、これから 戦争が起ころうとしている事も聞いていた。出稼ぎ組が戻ってきているのは、戦火から逃れる ためのようだ。リンファ自身、長期滞在はしないものの割の良い仕事を求めて都会に
足を運ぶ事も多かった。勝海と出会ったのもその帰りである。

『ねぇ、もうちょっとこの村にいても良いんだよ?早く帰りたいのは分かるけどさ・・・・』

何もこんな時に行く必要はない。ほとぼりが覚めてからでも十分ではないか。
リンファの目はそう言いたげだった。

『ありがとう。でも、あっちで私達の帰りを待っててくれてる人達もいるから・・・・なるべく心配 かけたくないんだ』

『だったら尚更だよ。死んじゃったら元も子もないじゃん』

リンファのこの言葉を最後に、しばらく沈黙が続く。

そして、重々しい空気を払拭すべく、葵は口を開いた。

『確かに怖いよ。この世界からいつ出られるかわからないし、そもそも出る前に死ぬかもしれない。 もし生き延びたとしても、一生出られないかもしれないし・・・・この村の人達はすごく優しくて、 いい人達だよ。リンファとも友達になれて、良かったと思ってる。でも・・・・やっぱり手がかりを 探すなら今しかないと思う。戦争なんていつ終わるか分からないし、それに・・・・ずっとこの村に いたら、私達はきっと村の人達に甘えちゃうから・・・・それじゃ待ってる人達に申し訳ないもの』

話している内に徐々に声が震え、最後には大粒の涙を流す葵。リンファは葵を慰めるように そっと肩に手を置き、葵の体を抱き寄せた。

『そっか・・・・それがキミ達の決めた道なら、もうボクからは何も言えない。 ただ、万が一キミ達が帰れなくても、この村にはいつでも戻ってきていいからね。 だから、一個だけ約束。絶対に死んじゃだめだよ』

『うん・・・・約束する・・・・!!』

泣き腫らして真っ赤になった顔を上げ、葵は頷いた。

『おーい!葵、さっさと戻ってこーい!』

『そろそろ支度しねぇと間に合わねぇぞー!!』

勝海と文弥の声が、明日の旅立ちの準備を促す。

『それじゃ、行こっか』

『うん』

リンファと葵は勝海達の元へ戻り、明日の準備を始めた。

そして夜が明ける。旅立ちの朝、村人達が総出で三人を送り出す。

『君達には本当に感謝しているよ。少々寂しくなってしまうが、君達が無事、元の世界に 帰れるよう祈っている』

村長が別れを惜しみつつ、三人を激励する。

『たまには連絡ちょうだいね?あなた達はもう家族同然なんだから』

フレンダも村長に続いて三人にエールを贈る。

『辛くなったらいつでも戻ってきてね?ここはキミ達のもう一つの故郷なんだからさ』

リンファはそう言って、ポケットから三つのSDカードを出し、三人それぞれに渡した。

『何だこれ?俺達にくれるのか?』

勝海の問いに頷くリンファ。

『うん。お守りみたいなもんだよ。なんかあった時にキミ達の機体のスロットに差し込んでみて』

『おう、ありがとな、リンファ!』

笑顔でサムズアップする勝海に、リンファも同じように返した。

勝海達三人は世話になったトアル村に別れを告げ、まずは一番近いトナリという街へと向かう。 トアルからまっすぐ2時間ほど南下した場所にあり、そのすぐ西側にはトーデという港町がある。

トナリ自体は特別漁業が盛んというわけではないが、トーデが近くにあるという事もあり、新鮮な 魚が入ってくるという。村長から貰った地図を頼りにトナリの街に着くと、駐機場を探して三人は 機体を停めた。

三人はまず、宿を探した。それなりに発展した街なので、数件の宿屋を見つけることができた。 その中から一番安い宿屋を選ぶと、二部屋を借りた。いくら幼馴染とはいえ、年頃の男女三人で 雑魚寝はまずい。

そして、今後の事について三人で話し合う。

ここを拠点にするのか、それとも特定の拠点を持たずに行動するのか。この世界で生活するに あたって、その費用をどうやって稼ぐのか。決めるべきことは山ほどあった。

『さて・・・・これからどうするよ?』

まず最初に口を開いたのは文弥だった。

『フレンダさんの話を聞いてた限りだと、俺等以外にも過去にこの世界に来てた人が いるっつー事だよな?そういう奴を探してみるか?』

『でも、異世界の人間は狙われてるんでしょ?そんな簡単に身分を明かしてくれると思う? もし分かったとしてもそれで近付いたら疑われるんじゃない?スパイとして』

『確かに・・・・』

勝海の案は決して悪くはなかったが、現実的に考えて難しいだろうとの事であえなく却下となった。

『じゃあ他にどうするか、ってぇ話になるんだが・・・・俺は傭兵になろうかと思うんだが、どうよ?』

葵は驚き、語気を強めて口を開く。

『ちょ、文弥!あんた、まさか死にに行く気!?』

『アホか、死ぬ気なんざ更々ねーよ。勿論危険はあるけどよ、ただ普通に生きてくよりかはずっと 情報が集まりやすいと思うんだ』

『でもそれって・・・・』

『ま、少なくともカタギの仕事じゃあねーわな。ただよ、俺らが異世界人である以上、身分隠して この国の兵隊になるよかよっぽどリスクも少なくて簡単なんじゃねーの?』

次に葵の口から出てくる言葉を察し、それを制するように先に答える文弥。
勝海も賛同し、自分の意見を述べた。

『俺は案外良いと思うけどな。真っ当な方法じゃ帰る方法を見つけるなんぞとうてい無理だろうし、 何より、その間だってこの世界で暮らすのに金は要るんだ。帰る前に飢え死にしましたじゃ洒落に ならんだろ?』

『あぁ〜もうッ!分かったわよ!!その代わり、無茶な真似だけはしない事!全員で帰らなきゃ 意味ないんだから!!』

『『おう!』』

勝海と文弥の声が揃った。三人はその後も夜遅くまで話し合い、大体の方針が決まったところで 床に就いた。そして次の日の朝、朝食を済ませた三人は、護身用の武器や着替え、携帯食料 などを見て回り、当座で必要になりそうなぶんを購入した。

この時点で、残金の三分の二を使っていた。ここから先は自分達で稼がねばならない。 とは言っても、三人はどうすれば自分達が傭兵としてみなされ、仕事を受けることができるのか を知らない。こういう事に詳しそうなのは宿屋か酒場だろう。

当たりをつけた三人は、まず自分達の宿泊している宿の主人に話を聞いてみた。

『何?傭兵になりたい?やめとけやめとけ、お前らみたいなヒヨッコがなったってすぐに死んじまう のがオチだ。それとも何か?明日の飯にも困る程切羽詰まってるのか?宿屋に泊まっといて そんなヤツぁ聞いたことがねぇな。お前ら、ひょっとして家出か何かか?』

『家出じゃあないが、ちょっと色々あってな。旅をしながら金を稼ぐ必要があるんだ。 幸い三人ともアームドロイドは持ってるんでな。あとは仕事さえあれば――――』

『若ぇのに訳ありってかい。分かった、詳しくは聞かねぇよ。ただな、傭兵になるにしたって アームドロイドだけ持っててもパイロットが弱きゃしょうがねぇ。お前らがどの程度のモンか 知らんが、悪い事ぁ言わねぇ。どっかの傭兵団に入れてもらえ。ちょうど今くらいの時間に 酒場に行けば奴等が管巻いてるからよ、行って交渉してこい。俺から言えるのはそれだけだ』

『おう、分かった。あんがとな、おっちゃん』

外を見ると、日が暮れていた。勝海達は宿の主人に礼を言って、宿を後にした。

宿屋の主人に教えて貰った酒場へと向かう三人。宿屋から酒場までの距離はそれなりに近く、 歩いて五分ほどの距離にあった。酒場はかなり賑わっているらしく、付近まで来ると、中の 騒ぎ声がこちらまで聞こえてきた。

扉を開けた三人を出迎えたのは、凄まじい熱気と喧騒、そして鼻を突くような強烈な アルコール臭であった。先客である彼等からすれば、いきなり酒場には似つかわしくない 子供が三人も入ってきたのだ。驚いて振り向くのも無理は無いのだが、葵は酒の匂いに 思わず顔をしかめていた所をちょうど傭兵と思しきの一人と目が合った。しまった、と思ったが、 もう遅い。

『おいおい、こんな時間に、しかもこんな場所にガキが来るたぁ、どういうこった? ここはガキの遊び場じゃねぇ。とっとと消えな』

『こっちにも事情があってね、俺達を仲間に入れてくれる傭兵団を探してる。三人とも アームドロイドは持ってる。戦いもそれなりにはこなせる。足手まといになるつもりはねぇ、 あんた達の中に俺等を受け入れてくれる奴はいないか?』

いかつい男達の威圧に負けじと、交渉を持ちかける文弥。性格上、三人の中で最も 腹芸に向いているのは文弥である。

『ハッ、どうだか。仮にそうだったとしても、一気に三人も入れちまったら一人あたりの取り分を どんだけ減らしゃ良いんだって話だよ。ウチも含め、ここに出入りする連中にそんな余裕はねぇ。 そんならハナっからお前らで傭兵団を立ち上げろ。腕はそれなりにあるんだろ?お前らの話が 全部本当ならよぉ』

『ならあんたらじゃなくて良い。どっかにアームドロイド乗りを募集してる傭兵団はないか?』

『阿呆。人出がなきゃ最初から傭兵団なんて名乗らねぇだろうよ。死んじまったとかで欠員が 出ねぇ限りはな。少なくとも、俺はこの辺ではそんな話は聞いたことがねぇ。そろそろ諦めな』

傭兵達に聞こえないように小声で文弥に耳打ちする葵。

『・・・・ねぇ、どうするの?これ以上話しても時間の無駄じゃない?』

確かにこのままでは埒があかない。「他の傭兵団に入る」という選択肢は、実質的になくなったと みていいだろう。

『分かったよ。だったら俺等で勝手に傭兵団を立ち上げるさ』

『そうかい。お前らにどんな事情があるのか知らんが、どうしてもやるってなら止めやしねぇよ。 死にたきゃ勝手にしろ。仕事の依頼はそこの壁に貼ってある。受けたい依頼の貼り紙を マスターんトコに持って行きな』

文弥と話していた傭兵が幾つか貼り紙のしてある壁の方を指差した。

三人で貼り紙を見てみる。張り出されている依頼は山賊の討伐や商隊の護衛といったものが多く、 当然ながらどれも戦うことを前提とした依頼ばかりだ。この中から、自分たちの実力に合った依頼 を見つけなければならない。自らの力量を測れるのもまた、一人前の傭兵の条件である。

そして、全ての依頼に目を通し、三人で相談した結果、受ける依頼は「商隊の護衛」となった。 張り紙を剥がし、カウンター席に持っていく勝海。

『おっさん、この依頼を受けるぜ』

『あいよ』

無愛想に返事をしながらも貼り紙を受け取り、内容を確認するマスター。

『こいつァゴールドバーグんトコの倅からか・・・・ここからしばらく西へ行ったところに ゴールドバーグっつうデカい商家がある。そこの長男坊が依頼主だ。ある貴族との商談で、山賊 共の出るルートを通らにゃならんらしい。お前らの仕事は山賊からコイツらの命と財産を守る事だ。 拘束期間は往復で五日。飯代・修理代は奴らが負担してくれる。報酬は一人につき 金貨50枚だ。受けるなら明日ゴールドバーグ商会の屋敷に顔出して話を聞いてこい』

大方の依頼の説明を終えると、三人それぞれの顔を値踏みするかのように見つめるマスター。

『で、どうするんだ?本当に受けるのか?』

『ああ、受けるよ』

勝海はマスターの問いにはっきりと答えた。

『なら向こうには予め俺の方から連絡を入れておく。お前らは帰って明日の準備でもしてろ』

そう言うとマスターは奥の方へと引っ込んだ。

『よし、じゃあ俺等も帰って準備すっぞ。俺達の初仕事だ、失敗したら洒落にならん』
『そうね、さっさと行くわよ』

勝海達は宿へ戻り、明日の仕事に向けて準備を始めた。