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第六話 街が活気付き始める頃、勝海、文弥、葵の三人は、街を少し離れたところにある商家・ゴールドバーグ家に来ていた。三人とも、酒場のマスターからの紹介状と割符を持っている。待機していた門番がそれに気付き、呼び止める。 「止まれ!ここはゴールドバーグ様の屋敷だぞ、ガキの来る所じゃねぇ」 露骨な態度をとる門番に、三人はマスターからの紹介状と割符を無言で突き付けた。 「ああそうか、お前らが連絡のあった傭兵達か。ずいぶん若ぇなオイ・・・・」 おそらくその後に続くであろう言葉は、三人にはだいたい想像がついた。 露骨なまでの不安そうな表情が全てを物語っていたが、門番は口には出さなかった。 「まぁ入れ、屋敷で当主様がお待ちだ」 言われるままに中に入ると、まずは広大な庭池の風景が三人の目の前に広がった。色とりどりの草木や花が並び、庭の中央には噴水と、それを囲むように様々な形をしたオブジェが整然と並べられていた。当主のいる屋敷はその奥にある。 「傭兵の方ですね。こちらへどうぞ」 屋敷の前で待っていたメイドがその扉を開ける。三人が中に入ると、二十代前半と思しき恰幅の良い優しげな男性が椅子から立ち上がり、三人を迎え入れた。 「君達が依頼を受けてくれた傭兵だね?初めまして、私が当主のスミス・ゴールドバーグだ。とは言っても、まだ成り立てだがね」 スミスは三人を見回すと、それぞれに握手を求めた。三人もそれに応じる。 「初めまして、宜しくお願いします。早速ですが、詳細を伺ってもよろしいでしょうか?」 さりげなく本題に入ろうと促す文弥。勿論、失礼にならないよう最大限に気を遣っている。 「そうだね、早速だが説明に入ろう。ちょっと長くなるから、そこの適当な椅子に座ってくれ」 スミスの指差す方向を向いてみると、綺羅びやかな装飾を施された椅子があった。恐る恐る腰掛ける三人だったが、やはり非常に高品質な椅子であるらしく、座り心地を考えて設計されており、腰に掛かる負担が驚くほど軽かった。 椅子の座り心地をひとしきり堪能した後、改めてスミスから詳細の説明を受ける。 「酒場で大体の話は聞いているかもしれないが、今回はある貴族との商談のためにちょっと離れた土地に行くんだ。その人の屋敷まで行くには山賊の出没するルートを通らざるを得なくてね、そこでアームドロイド乗りの君達の出番という訳だ」 メイドから出された紅茶を飲みながら、依頼の説明に耳を傾ける三人。 「調べてみたところ、人数は3人で、いずれもアームドロイドに乗っているそうだ。機種はドラゴンフライが一機、プルートが二機だ。性能に関しては君達の方が詳しいだろうが、ドラゴンフライは二丁拳銃による射撃、プルートは格闘戦を得意とする機体だ」 「プルートとドラゴンフライか・・・・文弥、お前はどう見る?」 すこし間を置いてから、勝海は文弥に振ってみた。 「プルート二機を壁にしてドラゴンフライで狙撃だな。ドラゴンフライは長距離火器の複数装備、プルートは十中八九足止めに特化した装備と見ていい」 「だよな」 勝海は頷いた。 あくまでゲームとしてのAWFの戦術だが、チーム戦の場合、接近戦向きの機体が戦列を形成し、後方の支援機を守りつつ戦線を押し上げ、後方から長距離射撃を叩きこむのが一般的な戦術となっている。通常、打たれ強いタフな機体が壁の役目を買って出るのだが、装甲の薄い軽量級のプルートでも敵の妨害に特化した構成ならば打たれ弱さという弱点もカバーできる。 「あたしはどうしたら良いの?」 葵が二人の会話に割って入る。機体の操縦に慣れたとはいえ、戦闘経験も少なく、戦術面に関してはまだまだ素人だ。二人もそれは十分承知なので、文弥が出来る限り分かりやすく、噛み砕いて葵に説明する。スミスも黙ってそれを聞いている。 「あ・・・・」 しまった、と思った。他の二人はともかく、葵が戦いの素人だという事が分かれば、依頼人を不安がらせてしまうかもしれない。時と場合によってはその場で依頼人から契約を破棄される事も有り得るのだ。現状、資金は生活必需品の購入などに充て、かなり心許ない。失敗の許されないこの状況で、三人は自分達の迂闊さを悔やんだ。 「もしかして、契約を破棄されるかもしれないと思ってる?大丈夫、私はそんなマネはしないさ」 スミスはまるで三人の心情を見透かしているかのように言った。 「それに、そこの彼の戦術のレクチャーだとか、聞いててかなり分かり易かったよ。随分そういう方面には明るいとみえる。装備よりも立ち回りを重視するタイプだ。たぶん君が司令塔なんだろう?」 「もう一人の彼も、アームドロイド乗りとしての腕前は相当なもんなんじゃないかな?恐らくだが、後方支援よりも最前線で力を発揮するタイプと見た」 三人は、特に勝海と文弥は驚いた。腕前はともかく、二人の適正を見事に見抜いている。 「俺達の――――何というか、その、戦い方とか、分かるんですか?」 「こういう商売してると、どうしても人を見る目を養わざるを得なくてね。ちょっと抜けてそうな部分も愛嬌の範疇だし、真面目そうだから十分信頼に値するとぼかぁ思うよ」 「そうですか、それでは―――― 「あー、ちょっと良いかい?こんな言い方は失礼かもしれないけど、君達って堅ッ苦しいの苦手でしょ?私も人と会う時はそれなりの態度でいるけど、ぶっちゃけこういうの苦手なんだよね。だからさ、我々だけの時は別に無理して敬語使わなくて良いよ?僕もその方が楽だし」 「そ、そうッスか・・・・」 「流石にいきなりは無理か。まぁそういう事なんで、移動中とかは普通にしゃべって良いからね?そうじゃないと呼吸困難で僕が死んじゃうから。HAHAHAHA!!」 いきなりはっちゃけ始めた依頼人に少なからず戸惑う三人。一人称まで変わっている。こちらの方が素なのだろうが、最初のイメージとのギャップに慣れるのにはしばらくかかりそうだ。 「で、だ。もし万が一君等のアームドロイドが戦闘で破損したとしても、時間に遅れるのはまずいから修理は我慢してついて来てもらうよ?僕が商談してる合間に修理屋を呼んでもらう事になる。どのくらい拘束されるかにもよるけど、それで間に合わなかったら延長料金は出すよ」 スミスが仕事モードに戻り、話を戻した。流石に商売をやっているだけはあると三人は納得した。 「もし万が一ですけど、行きで機体が全損して、移動ができない場合はどうすればいいですか?」 「その場合は申し訳ないけど、機体を捨ててもらうしかないね。あ、馬車には乗せてあげるよ?そうなったら、次の機体を手に入れるまでウチで保有してるアームドロイドを貸してあげよう」 「ちなみに、そうなった場合のお値段って・・・・?」 「君達になら定価の3割引きで貸してあげるよ。勿論分割払いもOKだ。依頼を受けてくれたよしみってのもあるけど、君達の将来性に対する投資って事で、ね?」 葵の質問に答えるスミス。初対面のアームドロイド乗りの戦闘スタイルを見抜き、商売人として名を馳せた男が、自分達を評価している。その事実は嬉しい半面、失敗できないという重圧をより一層に強め、葵の上に重くのしかかった。 単純に比較できるものでもないが、前回の戦いでは四機中、三機が中破している。しかも、うち二機は実質大破といっても差し支えない程に損壊がひどく、リンファ程の整備士でなければ修理は難しかっただろうという有様だ。 「大丈夫だって、いざって時は俺等が何とかしてやんよ」 勝海は葵の肩を叩き、笑ってみせた。自分を元気付けるためなのか、それとも本当に心配していないのかは分からない。ただ、自分が柄にもなく落ち込んでいる時は決まって勝海や文弥が励ましてくれるのだ。少なくとも、自分を気遣ってのことなのは間違いない。 「そうだそうだ。失敗できねーんなら成功すりゃいいんだよ。そういうのは俺等がやるからおめーは心配すんな」 文弥も葵の方を叩いて笑顔を作ってみせた。実際、ゲームのAWFの戦いには今まで興味もなく、単に見ていただけなので戦い方には疎いものの、何度も見ている二人の強さだけは知っていた。その二人が言うのだから、信頼しても良いのだろう。 「そうだね。あたしもいい加減覚悟決めるか!!」 両手の平で自分の頬をぴしゃりと叩き、気合を入れる葵。どうやら吹っ切れたようだ。 「三人とも腹を括ったようだね。こっちも丁度準備ができた。早速だが出発しよう」 「「「はい!」」」 三人はアームドロイドに乗り込み、出撃の準備を整えた。 ※※※ 貴族の屋敷へと向かう途中、一行は移動しながら山賊への対策を話していた。と言っても、文弥が二人に陣形について説明している程度だが。 「いいか、山賊連中がどこから襲ってくるか分からんから、どの方向から襲われても対応できるように正面に一機、やや後ろの側面に二機の布陣で行こうと思う。勝海は正面、俺と葵はそれぞれ左右だ」 勝海と葵の機体のそれぞれのメインモニタに、貴族の屋敷までのルートとそのルート周辺の地形データ、そして、自分達の現在地が映し出される。それを見た上で、文弥がそれぞれの位置を正確に指定し、いつ襲われても対応できる即応性の高い陣形をチョイスした。 「敵は三機だ。ならバラバラに襲ってくることはありえねぇ。どの方向から襲われようが反撃できるし、そこそこ足の速い俺や勝海の機体ならどっちか襲われても助けに行ける。葵の機体は頑丈だから俺達が駆け付けるまでの間なら耐えられるだろうしな」 あとはそれぞれ武装を転送して装備するだけなのだが、転送システムを起動しようとしたその時、 モニタに敵機体を示す赤いマーカーが3つ出現した。 「敵襲、九時の方向だ!いくぞ葵、文弥!!」 勝海の一声と同時に三機が馬車の右側面に集結する。 敵のドラゴンフライのパイロットがわざと聞こえるように外部スピーカーをオンにし、悪態をついた。 「チッ、護衛がいやがるのか。面倒臭ぇ・・・・」 深くため息を付いた後、勝海達に武器を向け、再び宣う。 「オイお前ら、大人しく金目の物を渡しな。そうすりゃ痛い目見なくて済むぜ?」 勝海も負けじと言い返す。 「ハッ、そう言われて大人しくハイそうですかって引き下がる護衛がどこの世界に居やがる」 「違ぇねぇ。ならサクッとブチ殺して貰うモン貰って帰るか。やっちまえ、お前ら!!」 「「おう!!」」 先に仕掛けたのは敵の方だった。ドラゴンフライが両手に持った二挺のスナイパーライフルを発射すると同時に、二機のプルートがシールドを構え、吶喊する。 「ちっ、あいつらめ、盾持ってやがった!!勝海、葵、奴等が来る前に盾を壊し切るぞ!!」 迎え撃つ勝海達も、葵のアポロンの援護射撃を背に、馬車に弾が当たらないように密集隊形を取り、マシンガンで応戦した。弾幕を張っていれば、少なくとも安易に近付かれ難いはずだ。 マシンガンとアポロンの射撃を全て受け止め、着実にその装甲を削っていた。しかし、プルートが接近し切る前に削り切り、本体を攻撃できるかどうかは微妙なところだった。 飛び交う弾薬の雨を受け止め、使い物にならなくなったシールドを破棄して接近戦に移行するプルート。機体を守るものはもうないが、本体は無傷だ。 勝海と文弥の懐に潜り込んだ二機のプルートは、もう片方の腕に構えていたハンマーを水平に振るい、ラプターとバジリスクの胴体に直撃を入れた。その衝撃で二機は装備していた武器を落としてしまう。更に衝撃はコクピットを伝い、二人はバランスを崩して側面に叩き付けられた。 ハンマーをフルスイングした二機のプルートが若干体勢を崩しかけたが、機体のオートバランサー機能が最大限に働き、踏み止まった。 動きの止まった二機に対して、プルートの後方から援護射撃をしながら近づいていたドラゴンフライが、スナイパーライフルを持ち替え、別の武装で攻撃した。今度はパルスレーザーの二挺同時射撃だ。降り注ぐ光の矢は全てラプターの胴体に吸い込まれ、装甲を飴細工のように溶かしていた。 「勝海ーーッ!!」 葵が叫ぶ。損傷の度合いから見て、辛うじて動くことはできそうだが、もう一度集中砲火を浴びれば確実に墜ちるだろう。 葵はアポロンの砲塔をドラゴンフライに向け、勝海に近付けまいと必死で撃ちまくった。しかし、文弥を攻撃した方のプルートがドラゴンフライを庇い、その攻撃を左肩に受けた。ダメージそのものは大きいが、機体そのものは今まで無傷だったためにまだ致命傷とはいかない。 武装を拾っている暇はないと判断した文弥は新たな武装を転送した。新たに搭載された武装はウィップとトンファーだ。 「これは――――行けるッ!!勝海、一旦下がれ、俺に考えがある!」 何かを思い付いたらしい文弥は勝海に引くように指示を出した。 勝海は文弥を信じ、一度下がる。 攻撃も覚束ないラプターに対し、二機のプルートが再び白兵戦を仕掛ける。ハンマーによる攻撃の直後、姿勢制御にオートバランサー機能を酷使したため、転送したブレードによる攻撃に切り替えた。バジリスクがプルートの前に立ちはだかり、勝海を庇う。 ハンマーの衝撃からまだ機体の制御系統が回復しきっておらず、攻撃はできないが、トンファーがあれば相手の格闘攻撃を防ぐことが出来る。プルート二機の白兵ならこれで耐え切ることができるし、ドラゴンフライの射撃は自分が盾になれば良い。 二機のプルートの攻撃をトンファーで防御し、ラプターを守り切った。続くパルスレーザーの猛攻で危うく大破しかけるが、首の皮一枚で凌いだ。 二機のプルートの攻撃直後の僅かな隙を突いて、葵は被弾した方のプルートの足を狙い砲撃した。やはりハンマーによる攻撃のしわ寄せがバランサー機能にきていたのか、機体制御もままならず転倒するプルート。 「「でかした葵!」」 勝海と文弥から歓声が上がる。まだ攻撃できない状態とはいえ、敵一体を一時的にでも行動不能に追い込んだ。相手が次に攻めるにせよ、引くにせよ、こちらもその間に次の作戦や準備を行いやすい。 戦場において時間とは、あるいは金よりも重要な資源である。 敵に致命的な一撃を与え、あるいは多くの人々を戦場から逃し、あるいは作戦や装備等、勝利に必要なあらゆる物を生み出す。葵は、その貴重な数秒という時間を稼いだのだ。 ここで山賊のリーダーであるドラゴンフライのパイロットは二択を強いられる事になった。勢いに乗ってラプターとバジリスクを倒してしまうか、大事を取って一度距離を取るか、だ。 このまま二機を倒してしまうのは容易い。しかし、その後無傷のアポロンを相手に戦わなければならないのだ。こちらも三機のうち、一機が被弾し、転倒している。この状態で指揮官機であるドラゴンフライを狙われたら守り切ることは至難の業だ。そうなれば、残ったプルートで耐久力に優れるアポロンと一対一で戦う事になるのだ。 逆に、一度引けばチャンスを逸する事にはなるが、態勢を立て直す事は出来る。 「・・・・チッ、お前ら、一旦距離を取るぞ」 指揮官の指示で、無傷な方のプルートが一度距離を取る。 そして、一度態勢を整えようと敵が引き始めた頃、勝海と文弥の機体は制御系等のトラブルから回復しつつあった。落としたブレードを拾い、新しい武装を転送するラプター。 勝海が引き当てたのはアサルトライフルだった。高機動戦用のこの武装ならば、追撃には打って付けだ。尤も、自機が大破寸前なので深追いは出来ないが。 転倒したプルートも起き上がったところで、まずは葵のアポロンが前進し、再び砲撃を加えた。また転ばされてはたまったものではないとばかりに、砲弾の軌道を大きく迂回するような形で回避した。アサルトライフルを構えたラプターがそれを迎え撃つために移動しながら発砲する。 援護に入ろうとするもうドラゴンフライがレーザーを構えるが、リミッターを解除したラプターの動きは速く、思うように照準を合わせられない。 ラプターからから逃れようとジグザグに走るプルートだったが、本来機動力で上回っているはずの相手に完全に追いつかれ、ついに被弾する。 ここで再び、山賊のリーダーは思考を巡らせた。 このままではプルートを撃破され、形成が逆転するのも時間の問題だろうが、これは同時にチャンスでもあった。 相手は三機のうち、二機が中破しており、あと一撃で沈むのだ。速すぎて狙いが付けられないラプターを撃つよりは、確実に倒せるバジリスクを狙えば、よしんばプルート一機が倒されたとしてもまだ二対二だ。残ったプルートがラプターを倒せば二対一で、こちらの勝利はほぼ確定する。 ドラゴンフライはパルスレーザーをバジリスクに向けるが、それよりも先にバジリスクのウィップが襲い掛かる。とっさに武器を盾に攻撃を防ごうとしたが、蛇のようにしなやかに唸る鞭は一瞬、山賊のリーダーの視界から消え、機体を捕縛した。 「何ッ!?」 敵機体が一瞬視界から消えたと思った直後、消えた機体が盾をすり抜けて眼前に現れ、鞭による攻撃が自機を襲った。目の前で起きた光景は、今まで生身の人間ばかりを相手に山賊行為を繰り返してきた彼にとっては理解の範疇を超えた出来事だった。 「何が起きたか分からん、って感じか?」 「テメェ!!何をしやがった!!」 「何てこたぁない、この機体だけが使える特殊モードでなぁ。この状態の時だけ武装の合間をすり抜けて直接相手の機体まで接近できるんだよ!!」 「そんな・・・・事が・・・・」 アームドロイド同士の戦いではなく、一方的に相手から略奪する事しか知らなかった山賊達と勝海達との差の最たるものは、やはり知識の差だろう。 だがまだ機体が大破した訳ではない。機体が拘束されているおかげで移動こそ出来ないが武器をすり抜けて本体を狙ったおかげで武器そのものは無事なのだ。相手のバジリスクは、皮肉にも機体の特殊機能を発動したせいで倒されるのだ。一瞬、山賊のリーダーがほくそ笑む。 そして、味方のプルートがブレードを投げ捨てミサイルを転送し、文弥のバジリスクを狙った。文弥の注意が一瞬、プルートに逸れる。 「――――かかったな!!」 プルートからはミサイル、ドラゴンフライからは二挺のパルスレーザー。 どちらを避けたとしても残った片方に撃墜され、そしてどちらかを倒して逃げ切ろうにも 現状のバジリスクの武装ではあまりに非力だ。今から新しい武装を転送しても間に合わない。 文弥がもう助からないと思ったその時、砲弾がプルートの横腹を貫き、機体を吹っ飛ばした。 盛大にすっ転んだプルートを見て、文弥はもう一つの事に気付く。 何時まで経ってもドラゴンフライのレーザーが来ない。 機体正面のドラゴンフライに目をやると、その左斜め方向、ドラゴンフライのコクピットからは死角 となる方向からラプターのブレードの切っ先が突き出ていた。パイロットは生きているようだが、 機体は完全に機能を停止していた。 「文弥ーっ!!生きてるー!?」 転倒したプルートを警戒しつつ、文弥の元へ駆けつける葵のアポロン。プルートを 吹き飛ばしたのは葵の砲撃だった。 「もう一体のプルートも倒しておいたぜ。お前のお陰でおいしいトコ持ってけたわ。ワリィな」 おどけるように勝海が言った。 「遅ぇんだよ馬鹿野郎」 文弥も笑いながら言い返す。 「「「――――じゃあ最後は―――― 武器を構えながら起き上がろうとした最後のプルートに、三機は武器を向けた。 「ま、待て!俺は降参する!撃たないでくれ!!」 勝海達は山賊達の降伏を認め、機体から降ろし、ロープで縛って戦闘は終了した。貴族の屋敷に着くまでは馬車に乗せて行かなければならないが、そこまで行けば然るべき所に突き出す事も出来る。 「Wow!!素晴らしい戦いぶりじゃないか!!君等に受けて貰えてホント良かったよ!!」 馬車から降りたスミスが三人に駆け寄り、健闘を称える。 かなり危ない戦いだったが、どうにか乗り切ることができたようだ。 三人はボロボロになった機体を引きずり、スミスを乗せた馬車とともに、貴族の屋敷へと再び歩き始める。 |