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第七話 山賊を退けた三人は、ゴールドバーグ商会の馬車に連れられ、無事に貴族の屋敷に到着した。 ボロボロになった機体を屋敷から少し離れた整備場に搬入し、機体の整備を受けている。 その間、他にやることがない三人は、憲兵に捕まえた山賊を突き出し、懸賞金を受け取る手続きをしていた。スミスから報酬を受け取るまでは、この懸賞金でも路銀としては心許ないが、ちょっとした小遣い稼ぎにはなった。 そして、やる事がなくなった三人は、整備上で自分達の機体が修理されていく様子をぼんやりと眺めていた。商談が一段落したらしいスミスが三人を見つけ、声をかけた。 「そこに居たのか。やっぱり自分の機体に愛着があるんだね?」 「まぁ、それもありますけどね・・・・こういう場所なんであんまりウロウロするのも、と思ったんで」 「ははは。まぁここの当主は結構気難しい人だし、それが正解だと思うよ」 ここの当主の話は、道中スミスから聞かされていた。ゴールドバーグ家の当主が代替わりする前、つまりスミスの父親の代に一度だけ取引があり、その時にスミスも同行したらしい。その際、商人や平民に対する嫌悪感を隠さず、父親を露骨に見下し、差別していたのを幼き日のスミスは目にしていたという。 ましてや、それが異世界から来た傭兵などを引き連れてきたとあっては、この手の人間からは殊更に嫌がられるであろう。 「大きな声じゃ言えないけど、価格の交渉をしようとしてもその話をした途端に機嫌を損ねて『これだから金の亡者は・・・・』とか言われてしまったよ。僕達商人を下に見て、如何にも『お前らに儲けさせてやってる』みたいなね・・・・おっと、少し口が過ぎたかな」 大げさに肩をすくめてみせるスミスに、勝海が方をポンと叩いて言った。 「良いッスよ、スミスさん。ここを出るまでは我慢して・・・・後で盛大にぶち撒けましょうや」 「すまないねぇ・・・・はぁ、取引先の愚痴を、それも護衛に雇った傭兵に喋っちゃうなんて、 僕もまだまだだねぇ・・・・」 口ではそう言ってはいるが、以前からここの当主の性格を知っているだけに、商売の話と取引相手の人柄は別だと幼い頃から割り切っていたのだろう。 その辺は商売人としてのスミスの才能の一つだと三人は素直に感心していた。 「さて、順調に行けば明日の夜には話がまとまるから、あとは機体の修理が終わるのを待って街に帰るとしよう。君達もお腹空いたでしょ?ここの領主は性格の悪さで有名だけど、実はここのシェフの料理も有名なんだ。正直これだけが楽しみでさ、君達も期待して良いよ」 まるで図ったようにタイミングよく腹の音がなったので、スミスは思わず吹き出してしまった。 三人も釣られてひとしきり笑うと、それぞれにあてがわれた来客用の部屋に入っていった。 そして夕食を済ませたあと、今後の予定について相談するため、三人で文弥の部屋に集まった。 「山賊連中は倒したけど、アレで全部なんか?」 「ああ、スミスさんからはそう聞いてる。勿論用心するに越したことはねぇけどな」 「じゃあ、昼間の戦いで実質依頼は達成してるのよね・・・・報酬を受け取ったら、次はどうするの?」 「そうさなぁ・・・・とりあえずスミスさんから地図を買って、ついでに今後について相談しようかと思うんだ。今ここで俺等が集まった意味ねぇけどな」 「それって、あたし達の事を全部話すってこと?」 「ああ。あの人なら俺等を売るようなマネはしないだろうからな。ってか、十中八九俺等が異世界人だってわかってるぜ?あの人は」 「確かにスミスさんにはとっくにバレててもおかしくないわね・・・・」 スミスの観察眼ならとっくに素性が知られていてもおかしくはない。だが、それを承知の上であっても自分から話すのと、後から判明するのではまた話が違ってくる。スミスが信頼に足る人物なのはここまでの道中で確認済みである。ならば話しても問題ないと文弥は判断したのだ。 「とにかく、元の世界に帰るには協力者が要る。それも顔の広い人がな。あの人の人脈があれば俺達が帰れる可能性が格段に上がるんだよ。分かるだろ?」 「・・・・そうね。他に頼るアテもないし、あの人なら騙すようなマネはまずしないし、ね」 話はまとまったようだ。三人はそれぞれの部屋に戻って眠りについた。そして翌日、スミスの取引が終わるのを待って、三人は事情を説明した。 「なるほどね。君達の事情はだいたい分かった。そういう事なら僕にも協力させてよ」 スミスは頷き、三人に対して笑顔で言ってみせた。 「いきなり知らない世界に迷い込んで、随分苦労したんだろう?その若さであの強さってのも納得したよ。今度は僕が君達を助けよう・・・・その代わりと言っちゃなんだけど、君達の世界の事とか、色々教えて貰えないかな?向こうの世界の情報ってのは貴重でさ、いい商売になると思うんだよ。勿論君等の事は絶対漏らさないと約束しよう」 三人への協力を申し出ながら、商売のことも忘れない。抜け目ない男だが、彼の人柄を知っている三人は絶対に裏切らないと確信していた。 「良いッスよ。助けて貰う条件としちゃあ安いもんですよ」 「ありがとうございます、スミスさん」 「お礼なんていいよ。これからお互い助け合うんだし。これからは雇い主ではなく、『仲間』として付き合おうじゃないか」 「そうッスね。これからよろしくッス!」 勝海とスミスが握手を交わす。戦いにこそ加わらないものの、これでスミスも三人の仲間となった。 トアル村の住民達に続き、この世界で出来た協力者である。知らない事だらけのこの異世界において、こうして友好的な出会いが多いあたり自分達は恵まれているのかもしれないと三人は思った。 「で、早速なんすけど、この世界の地図が欲しいんで売って下さい」 「良いよ。代金は報酬から差っ引いておくね・・・・大方、手がかりを求めて別の場所に行きたいけど、どんな国があるかもどこを目指せばいいのかも分からないのでアドバイスが欲しい、ってところだろう。正解かな?」 三人揃ってこくりと頷く。鞄からおもむろに地図を取り出し、目の前に広げたスミス。地図の真ん中にある群島を指差し、彼は三人に説明を始めた。 「我々の今いる国がこの『トリマ王国』だ。ちなみに僕達がいるのはこの中で一番大きい島『トループ島』南方の沿岸部だね。この辺に僕達が出会った『トナリ』の街があって、その郊外に僕の屋敷、そしてそこから一日歩いたこの場所が現在地だね」 「なるほど・・・・で、俺等はどうしたら良いんスかね?」 「まずは一度トナリの街へ戻って報酬を渡して、その後すぐ隣の港町『トーデ』に向かおう。そこで外国行きの船が出てるはずだから、まずは諸外国について説明するからそれを聞いて次の行き先を決めてはどうかな?」 スミスの提案にを受け入れた三人。同意を得られたスミスは、早速説明を始めた。 「で、このトリマ王国は小さな島国で、周りを囲むような形で他の国々がある。まずは東側の大きい大陸にはこの世界最大の国家『ディセント帝国』、この世界最強の国家で、アームドロイドの数、パイロットの質、どれもずば抜けているんだ」 そこから更に下を指差し、説明を続けるスミス。 「そこから南下して『キンドル共和国』、更に行くと『グランペール王国』だ。後者二つは実質的にディセント帝国の属国だね。二ヶ月ほど前の戦争でディセントにボロ負けして、滅ぼされる一歩手前までいったそうだ。その前までは我が国とも仲が良かったんだけどね」 「この国は今も戦争やってるんですか?」 葵は不安そうな表情でスミスに尋ねる。 「バリバリ戦争中だよ。昔っから好戦的な国でね、しかも強いから、この国から何かを要求されたらどんな要求でも従うしかない。滅ぼされるよりはマシだからね」 「じゃあ何でこの二国はディセントに挑んだんですか?」 「昔っからディセントに搾取され続けて、餓死者まで出る有様だったからね・・・・我慢の限界だったんだと思う。国民の間にも反ディセント感情が高まってたらしいし」 「そうですか・・・・」 「無論、強い国について戦ってお金を稼ぐ、ってのは十分ありだと思う。君達の強さなら十分通用すると思うし。ただ、ぼかぁお勧めしないけどね・・・・じゃ、次行こうか」 今度はトリマ王国の上から順に、左側に順にそれぞれの大陸を指さしながら説明を続ける。 「次はトリマ王国の北にある『ボンバルディア帝国』。火薬の産地として有名で、初めて人間用の火器を実用化した国でもある。ここも戦争大好き国家だね。その隣は『ドミニオン共和国』。大きな戦闘はないけれど、平和と言うよりは戦争に向けて準備中といった感じだね」 「一旦銃とか買うために寄るのもアリか?」 「いや、それだけのためにここに寄るってのもなぁ・・・・」 「ウチにもあるよ?買ってくかい?」 「・・・・ちょっと考えさせて下さい」 勝海の武器を買いに行くという提案を文弥が検討しているところに、すかさず自分の商品を売りつけようとするスミス。その光景を横目で見ていた葵は、少し笑いそうになったのを堪えた。 「そして、次は『サンファン共和国』と『エルグランデ王国』だね。この二カ国は同じ大陸にある国にも関わらず戦争ばかりでね・・・・まあそもそもの成り立ちからして仕方がないんだけど」 「何かあったんスか?」 文弥が訝しげにスミスに尋ねる。 「ああ、元々この二国は元々一つの国だったんだけど、政治的なゴタゴタがあって内部分裂を起こしちゃったんだ。で、片方がそれにかこつけてもう片方に散々好き勝手やったらしくて、それがきっかけでもう片方が報復にとアームドロイド持ちだして暴れまくったんだよ。で、前者がサンファン共和国、後者がエルグランデ王国を名乗ってずっと戦争してるって訳さ」 「うわぁ・・・・」 葵が表情を引き攣らせる。この中から次の行き先を決めなければならないのだ。 「ちなみに情報を集めやすいのはディセントかドミニオンだね。僕のおすすめはドミニオンかな?」 「ドミニオンか・・・・まあきな臭いのはどこも一緒だし、まだ戦争になってないだけ情報収集もやりやすいか・・・・」 「そういう事。ま、帰ったらすぐに船の手配をするから、待っててよ」 「何から何まですみません・・・・」 「おいおい、まだ終わっちゃいないだろ?山賊連中を倒したとはいえ、僕等が無事に家にたどり着くまでが君等の任務なんだから」 既に依頼が終わったような気でいるらしい三人に、それとなく注意を促すスミス。 おどけたような言い方ではあるが、三人はまだ依頼を完遂していないことを思い出し、再び気を引き締める。 「・・・・そうッスね。じゃあ俺等、出発の準備だけしときますわ」 「そうだね。また何かあったら僕に聞いてね」 そう言い残して、スミスは部屋に戻った。 「さて、今後の動きは決まったし、部屋に戻ろうぜ」 「おう、明日に備えて今日は早く寝るか」 三人は自分の部屋に戻り、明日の支度をしてから休んだ。 そして次の日、スミスの商談もまとまり、機体の修理も出発に間に合ったので、三人はスミスとともに貴族の屋敷を発った。 帰りも三人は用心していたが、新しい山賊が住み着いたという話もなく、特に危険もなかったので安全に屋敷に戻ってこれた。 スミスの屋敷で一泊し、翌日にトナリの街の酒場で報酬を受け取った。 三人は傭兵としての初依頼を完遂したのだ。 この世界にきて初めて自分たちの手で報酬。しかし、感慨に耽っている暇はない。 この金でスミスから護身用の武器を購入し、トナリからトーデに向けて移動する。 その後、アームドロイド三機を船内の整備ドックに搬入し、手配してもらった船に乗り込んだ。 そして、三人を乗せた船はドミニオン共和国に向けて出発した。 しばし船旅を楽しむ三人。船から見たトリマ王国は、木々が色付き始めた事もあり、 大自然の美しさに三人、特に葵はしばし見とれていた。 途中で飽きた勝海と文弥の二人が船内を探索し始める。 「なんかこの部屋めっちゃ良い匂いしねぇ?なんだべこの匂い」 「もしかしてアレじゃね?お茶とか茶菓子とかそんなん」 「マジか。俺なんか腹減ってきた」 「よし、そんじゃ分けてもらいにいk―――― 「やめんかいッ!!」 二人が何かやらかしそうで不安になって後を追いかけてきた葵。 案の定修学旅行のノリではしゃいでいるアホ二人を、助走を付けて殴って止めた。 その拳は見事顔面にクリーンヒットし、二人は鼻のあたりをおさえながら顔をあげた。 「「すんません調子こいてました」」 葵に土下座する二人。葵は鬼の形相で二人を睨みつけ、無言の内に牽制した。 二人は瞬時にその内容を察した。『次はないぞ』と。 そして、割り当てられた部屋に戻ろうとしたその時、激しい爆音が船内に轟き、船は大きく揺れ、三人は壁に叩きつけられた。 「どうした!?いったい何が起こったんだ!!」 「か、海賊です!!敵はアームドロイド三機!いずれも水陸両用機です!!」 「「「なんだって!?」」」 突然の海賊の奇襲に、船内は騒然となった。この状況を打破するため、三人は整備ドックを目指して走り出した。 |