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第八話

三機の水陸両用型アームドロイドによる突然の攻撃に、船内はパニックに陥っていた。船内にはクルーたちの張り詰めた声と、女性や子供の泣き叫ぶ声とが響き渡っている。

三人がアームドロイドを取りに走っている間も、船はずっと攻撃に晒され続けている。揺れによって思うように進めないが、モタモタしている場合ではない。何度か転びそうになるも、その度に支え合い、どうにか整備ドックにたどり着いた。

急いで機体に乗り込み、戦闘モードに起動させる三人。

「さっきの話は聞いてたな!?敵は水中戦用の機体が三機だ!圧倒的に不利だが俺等がやるしかねぇ!敵が姿を表した瞬間に一機ずつ攻撃を集中して各個撃破だ!!」

クルーたちの会話を判断材料に戦況を想定し、戦略を構築する文弥。

「俺達の機体は水中で動けるようにできちゃいねぇ。船がやられたらどのみち俺達も終わりだ!いざとなったら俺等が囮になってでも船を守り切んぞ!!」

「「了解!!」」

勝海達の機体のような汎用性の高い機種は、どのような状況下にもそれなりに対応できるように設計されているが、所詮は「それなりに」しか対応できない。

水中を自在に動き回るというのは、今回の敵のようにその目的に特化した機体でなければ成し得ないのだ。

故に水中に引きずり込まれたら終わり。助かる道はなし。

ならば一箇所に固まるよりかはそれぞれを別々に配置した方がいいだろうと文弥は判断した。敵が姿を表したならば、その時に集まれば良いのだ。スミスの依頼の時と同じである。

「行くぞ!気合入れてかかれッ!!」

勝海の号令とともにドックから三機のアームドロイドが出撃した。

※※※

「ヒャッハァー!!『トルストイ三兄弟』のお通りだァー!!」

「 死にたくなけりゃ金目のモン全部出せやァ!!HAHAHAHAHAHA」

勝海達がアームドロイドを取りに言っている間、トルストイ三兄弟を名乗る海賊達はやりたい放題に暴れまくっていた。三機はいずれもオルカに改造を施したもので、原型機から多少形は変わっているものの、少なからずその面影が残っている。

さらに、水中から撃っても威力が減衰しないように特別にカスタマイズを施された射撃武器で身を固めていた。

「オラオラー!!降伏すんなら今のうちだぞコラァ!!」

オルカのマシンガンから放たれる銃弾が船体を切り裂く。更に攻撃を加えようとした一機をもう一機が制し、外部スピーカーより船に向かって言った。

「十秒待ってやる。その間に降伏しなきゃ、お前ら船ごと海に沈めてやっからな。1、2・・・・」

リーダーらしき、攻撃を止めさせたカウントダウンを始めた。
このまま沈黙を続けていれば、この船共々海の藻屑となるだろう。

「どうします?船長・・・・」

「・・・・乗員の命には代えられん。やむを得まい」

「・・・・7、8・・・・」

「よし分かった。要求にしたg――――」

「その必要はねぇッ!!」

船長の言葉を遮り、勝海の声と共に銃声が響き渡る。 不意打ちを受けたオルカはとっさにマシンガンを盾にし、本体を守った。

「ハハッ、海賊相手に陸戦用のアームドロイドで挑むたぁな!お前らの度胸だけは買ってやるが・・・・それだけで勝てる程世の中甘かァねぇんだよッ!!」

三機のオルカが水中に潜る。それを見て三人はそれぞれ配置についた。
一旦水中に潜られてしまうと、こちらからは手出しができない。

「どこから攻撃が来るか分からんからな、気をつけろよ?」

勝海と葵に注意を促し、同時に自らも周囲を警戒する。

そして、葵と文弥の警戒している範囲のちょうど中間あたりに敵のオルカが現れる。

「来たぞッ!!撃てぇーーーーッ!!」

文弥が叫ぶ。そして、合流しようとして勝海のラプターが走り出そうと向きを変えた時、その隙を突く形で背後から別の二機が集中砲火を浴びせた。

「勝海ッ!?クソッ!こっちは囮だったのかよッ!!」

「さっきはよくもやってくれたなぁ!お礼はたっぷりくれてやんよ、鉛弾でなぁ!!」

二機のうちの片方は、マシンガンを持っていた方のマニピュレータにアサルトライフルを
装備していた。おそらくは先ほど奇襲を受けた方の機体だろう。

ロクに動く暇も与えられず、装甲を削られていくラプター。
文弥は打開策を考え、葵に指示を出す。

「葵!コイツは俺が引き付けておく、アポロンの砲撃で勝海の脱出を援護しろ!!」

「分かった!」

アポロンが方向転換を開始した時、相手の攻撃が止んだ。再び水中に潜り始めたのだ。

「チッ、また潜りやがった・・・・勝海、大丈夫か!?」

勝海の機体は大打撃を受けており、既に駆動系やセンサーの一部に甚大な被害が出ている。ラプターの背面から飛び散る火花が、攻撃の激しさを物語っていた。

「・・・・ダメだ、損傷が酷すぎる。っつーか今は俺よりも船の心配をしようぜ」

どうやら戦略の裏をかかれて焦りすぎていたようだ。
勝海に指摘され、冷静さを取り戻した文弥。

「そうだな・・・・奴等が潜ってる今こそ体制を立て直すぞ!!」

左右側面の船体にそれぞれ文弥と葵が、そして勝海が船の中央部、船橋を背にする形で陣取った。損傷が酷いため前線に配置したらすぐにやられるというのもあるが、いざとなった時にラプターを盾に乗員を少しでも守れるかもしれない。勝海が自ら申し出た結果であった。

少しでも盾としての役割を果たそうとラプターにシールドを装備させる勝海。そして、再び敵が浮上する。

バジリスクに集中して三機のオルカがそれぞれ別の場所から攻撃を仕掛ける。
これなら一度に攻撃を受けて撃墜される事もない。

しかも攻撃を受けた一機だけが潜れば良いので攻撃自体が途切れることもなく、継続して攻撃が来るのだ。

悔しいが、認めざるを得ないだろう。

相手に地の利があるとはいえ、それを頼りにゴリ押しするのではなく、攻防一体の戦術の一環として地形のアドバンテージをフル活用している。それはまさしく文弥の理想としている戦術であった。

オルカの攻撃にスナイパーライフルで応戦するが、すぐに水中に潜られる。残りの二機の攻撃は相手の装甲を削るだけではなく、味方機が撤退する際の援護にもなるのだ。

すぐにアポロンも駆け付けるが、それを察知して再び三機とも水中に身を隠した。そして、アポロンが離れて守り手が不在となった船体右側面に三機のオルカが現れ、集中砲火を浴びせた。船は大きく揺れ、勝海のラプターが転げ落ちそうになる。そのすぐ横に、オルカの射撃によって破壊された船の甲板の一部が倒れ掛かってきた。

「うおっ!?危ねぇッ!!」

運が悪ければ、甲板の下敷きになっていただろう。

「待てよ?もしかして・・・・おい勝海、ちょっと良いか?」

「どうした?何かあんのか?」

「ああ。ただ、下手すっとお前の機体が犠牲になるかもしれん」

「・・・・勝てる見込みはあるんだな?」

「ぶっちゃけ七割くらい」

勝海がそれだけ聞くと、文弥ははっきりとそう言った。

「よし、なら任せるわ」

大まかな作戦内容を察したらしい勝海は、文弥のその答えを聞くと、満足気に頷いた。文弥が葵と船長にも通信回線を開き、作戦を説明し始めた。

※※※

三機のオルカは、先程から攻撃が来ていないのを訝しんでか、再び水中に潜った。
恐らくは、何らかの策を講じている最中であろう事は察しが付いていた。

「なぁイワンの兄貴。何故攻撃を止めて潜ったんだ?奴等が何かやらかす前に叩き潰しちまった方が早いんじゃねぇの?」

「馬鹿野郎、そうやって深追いすると痛い目見るんだよ。こっちが圧倒的有利とはいえ、油断するもんじゃあねぇ」

「分かったよ、兄貴・・・・で、次はどうする?」

「そうだな・・・・まずは大破寸前のラプターを潰す。その後はバジリスク、アポロンの順に倒すぞ。 アレクセイ、お前は俺と三機の足止めだ。グレゴリーは隙を突いてラプターを倒したら一旦潜って アポロンを引き付けろ。俺達でバジリスクを倒したら散開して三方向からアポロンを一斉に攻撃するぞ」

「あんちゃん、なんで先にアポロン倒さないの?動きが見るからに素人っぽいしすぐに倒せるのに」

「あのなアレクセイ。あいつらの中で一番知恵が回るのは恐らくバジリスクだ。あいつを最後まで残しておいたらきっと面倒臭いことになるぞ?それなら先に面倒臭い方を倒しちまえば残った獲物を楽に狩れる訳だ。分かるな?」

「なるほど、あったま良いなぁあんちゃんは!」

「よし、行くぞ!」

「「おうッ!!」」

三機は攻撃を仕掛けるため、再び浮上した。

※※※

「――――よし、これでいいだろう。船長さん、あとは手はず通り頼むぜ」

「うむ。了解した」

作戦内容を説明し、船長以下、クルーたち全員に協力を要請した勝海達。
彼等の助力もあって、想定していたよりも速く準備が整った。三機とも配置につき、敵を待つ。

そして、敵のオルカがついに浮上する。現れたのは二機で、バジリスクとアポロンの前に現れた。 すぐさま迎撃態勢に移り、攻撃を開始する二機。

撃っては潜るを繰り返す敵の戦術に敢えて乗り、敵の攻撃に身を晒しながら反撃する。ラプターも加勢し、使い捨てのミサイルポッドで遠距離から二機を援護する。

「今だ、行けッ!グレゴリー!」

ラプターの背後から浮上し、グレゴリーの乗るオルカが襲いかかる。

「かかったな!船長、今だッ!!」

アサルトライフルを構えたグレゴリーのオルカに巨大な何かが激突した。太い鎖につながれ、何枚もの板とブースターらしきものがついているが、グレゴリーにはその正体がわかった。

「これは・・・・船の錨か!」

文弥の作戦の一つがこれである。船の錨に追加ブースターとシールド、そして甲板の板を数枚取り付け、射程も長く、且つ何度でも使える飛び道具となった。回収しなくとも、錨に取り付けたシールドを持てばアームドロイド用のビート板として使え、擬似的にだが水中戦を可能とする。

オルカが吹き飛ぶ。すかさず錨を空中キャッチし、水面に飛び込むラプター。

「チッ、まさか錨を武器にしてくるとは・・・・」

「どうすんのあんちゃん!!」

「慌てるなアレクセイ!一旦潜るぞ!!」

戸惑う弟を窘め、離脱を図るまさのその時、アレクセイのオルカに向けて砲弾が放たれた。

「アレクセイ!早くもg――――

「え・・・・?」

オルカの胴体にアポロンのキャノンが命中した。砲弾はオルカの装甲を抉り、大穴を穿った。

「アレクセイ、大丈夫か!?」

「大丈夫だよあんちゃん」

どうやら奇跡的に内部は無事だったようだ。ただ、このまま潜れば浸水によりエンジンや電源系統にダメージを受ける可能性がある。

「仕方ない、お前はもう水中に潜るな!常に水上で戦うんだ!」

「分かったよ、あんちゃん!」

アレクセイは長兄・イワンに言われた通り、水上を常に動き回りながら戦った。
次兄グレゴリーもすぐに駆けつけ、援護する。

ここからは、文弥と葵もアレクセイ機に狙いを定め、マシンガン等の面制圧に適した武器に切り替え、戦っていた。まだ水上を動き回れるとはいえ、潜られることが無くなっただけでも幾分やりやすくなった。これを好機と見て、他の二機を警戒し続けながらもアレクセイ機に攻撃を続ける二人。そこにイワンの機体が奇襲すべく、二機の背後から浮上する。

「今度こそ仕留めるッ!!」

既に転送し、エネルギーチャージの済んだ荷電粒子砲を構え、バジリスクに狙いを定めるイワン。その時、ブースターの付いた錨の上に乗った勝海のラプターが急接近する。

「チィッ!!」

とっさに荷電粒子砲をラプターに向け発砲する。ラプターはジャンプし、そのままイワン機に飛びかかった。潜って離脱を試みるも、ラプターのマニピュレータはしっかりとオルカを掴み、離さない。この状態では身動きが取れず、しかもラプターの重みが加わり、浮くこともできない。

勝海はラプターのキャノピーを開き、泳いで脱出した。しかしイワンのオルカはがっしりと羽交い締めにされており、機体を捨てて脱出することもできない。

そうこうしているうちに、二機はより深く沈んでゆく。まんまとしてやられたのだ。

一方で文弥と葵は、残った二機を相手に一進一退の攻防を繰り広げていた。相手の片方が潜れず、もう片方がそれを庇いながらというハンデがあっても、それでようやく五分と五分である。相手に戦術もさることながら、実力差に大きな開きがあることは否定しようがない。

「葵、このままじゃ埒があかん!あの錨使ってお前がトドメさしてこい!」

この状況を打開するため、文弥は葵に指示を出す。

「私が!?」

「そうだ!お前が鍵なんだ!お前とアポロンじゃなきゃできないんだ!!俺が援護してやる、だからもう二、三発ぶち当ててこい!!」

「・・・・わかった!その代わり、しっかり援護しなさいよ!?」

「あたぼうよ!」

葵は船長に錨の回収を頼み、その場を離脱した。

「アポロンがどっか行った!チャンスだよグレゴリー兄ちゃん!」

「待て、イワンの兄貴も言ってただろう?きっとあいつら、また何かしてくるぞ!!」

「あんちゃんはどこ行ったの?まさかやられちゃったんじゃ・・・・」

「馬鹿野郎!イワンの兄貴がやれられる訳ねぇだろ!?現にまだラプターと――――

言いかけたところで、異変に気づいたグレゴリー。確かに兄・イワンの機体の反応はまだある。そして、それと重なるようにラプターの反応もあった。

しかし、先程からずっとその二機の反応が重なったまま微動だにしていないのだ。仮にあのブースター付きの錨で格闘戦に持ち込んでいたとしても、あの動きの無さはあり得ない。

「まさかアイツ、兄貴を道連れにしてラプターを沈めやがったのか!?」

グレゴリーは確信した。ただ、どちらにせよ今は兄の救出は後回しにせざるを得ない。
残る二機を倒してからでなければ救出は危険すぎるのだ。

そしてこの状況を巻き返す乾坤一擲の妙手を考える。
敵は錨にブースターを取り付け、掴むなり乗るなりして水上での機動力を得ている。
ならばそれを破壊してしまえばもうこの手は使えない。

そうと分かれば潜れないアレクセイに錨鎖を担当させ、自分がブースターを破壊すれば良い。グレゴリーはアレクセイに作戦を説明した。
「アレクセイ、まずはあの錨をどうにかするぞ!俺がブースターを破壊するからお前は錨鎖を狙え!そうすりゃあいつらは海へ出てこれねぇ!」

「分かった、グレゴリー兄ちゃん!」

アレクセイが錨鎖を攻撃しようと接近すると、ちょうど船が錨を回収しているところだった。

「兄ちゃん!あいつら錨をしまってるよ!」

「いや、これはこれで好都合だ!あいつら水上での戦いを放棄しやがった!」

せっかく自ら作り上げた対抗策を捨てるとは馬鹿な奴等だ、と言わんばかりにグレゴリーは再び攻撃しては潜る、というパターンを繰り返した。

「よし、そろそろ掴めたか?葵」

「うん、バッチリ!」

文弥の問いかけに自信あり気に答える葵。作戦の第二段階を実行する時が来たようだ。

「3、2、1、今だッ!!」

文弥のカウントダウンと同時に錨を振り回し、合図と共に浮上したグレゴリー機に向かって錨を打ちつけた。ボディに錨が直撃し、コクピットの中で大きく揺さぶられるグレゴリー。

「よし、ドンピシャだ!こいつら、あのリーダーがいなくなったら動きが読みやすくなった!」

トルストイ三兄弟は、戦術面の大部分を長兄イワンに依存していた。単純な戦闘力は勝海達よりも高いものの、それもタイマンで戦った場合の話であり、仲間との連携や高度な戦術が要求されるチーム戦においては、イワンさえ倒してしまえば後は烏合の衆も同然である。

結局イワンを倒された後、攻撃しては潜るという行動がルーチン化しており、動きが単純でタイミングさえ分かればあとは攻撃が届く武装さえ用意すれば良かった。

そこで決定打を与える武装として選んだのが錨である。ただし、錨は一度回収した後に爪のついたアンカータイプから、錘そのものであるシンカータイプへと換装してある。

これを鎖鎌の要領で敵に打ち付ける。さらに、葵のアポロンは船から身を乗り出し、錨鎖を持つマニピュレータの握力を弱め、勢い良く滑り降りた。機体そのものを質量兵器として転用したのである。

アポロンの全重量のかかった足がグレゴリー機に命中する。水中故に威力こそ減衰するが、巨大な鉄の塊が迫り来る様はパイロットを怯ませるには十分過ぎる程であった。

そして残った腕ですかさずグレゴリー機の腕を掴み、そのままゼロ距離で砲撃する。
最初に脚部と胴体の接合部を撃ち抜き、胴体泣き別れとなったところで今度は片腕を吹き飛ばす。アポロンを乗せた錨は、胴体と片腕だけが残ったグレゴリー機もろとも船上へと回収された。

「よ、よくもあんちゃん達をッ!!うわぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

怒りと絶望が入り混じり、恐慌状態に陥ったアレクセイは船上へと上がり込み、マシンガンを乱射しながらアポロンへと吶喊していった。

しかし、その重装甲でもってアレクセイ機の攻撃を耐え抜き、再び錨を振り回し、アレクセイ機の足を絡め取った。転倒してなおも銃を乱射するアレクセイ機を羽交い絞めにし、ブレードを持ったバジリスクがそれを斬り伏せた。