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第三話

「葵に文弥!?お前らも巻き込まれたのか!?

勝海は驚いたように言った。

「カツミ、知り合いかい?」

「おうよ、俺の幼馴染だ。どうしてコイツらまで来てるかは知らねぇがな」

カツミから話を聞いたリンファは機体のマニピュレータで敵機体を指差し、こう切り返す。

「とにかく、感動の再開は後にしよう。まずはコイツらをやっつけないとね」

「そうね、今は戦いに専念しないと! 勝海、文弥、あんた達の出番よッ!!」

「「おうッ!!」」

二人の声を合図に敵は一度散開し、起き上がった二機がラプターに攻撃を開始した。
勝海はフットペダルを強く踏み込み、敵の攻撃を躱した。

戦いの火蓋は、切って落とされた。

リンファは頭の中で作戦を練っていた。自機は戦闘用ではないので、実質三対四だ。
加えて、勝海も含め、この三人の実力は未知数だ。

ラプターの損傷を加味して、最良の選択肢は指揮官機狙いの短期決戦だろう。
他の二人の機体――――恐らく奴等から奪ったであろう――――は、バジリスクとアポロンだ。装備武装による防御が通用しないバジリスクと火力に優れるアポロンならば、うまく連携が取れれば十分いけるとリンファは考えた。

そして、それを口に出そうとした瞬間、バジリスクの回線から各機に対する指示が出された。
「葵は動かし方分かんねぇだろ?武器の使い方は俺がレクチャーするからひたすら敵を撃ち続けろ!勝海は葵が攻撃されないように囮になってくれ!そっちのあんたは状況見て俺等のうちの誰かのサポートだ!いいな!?」

「ちょっと待って!あのラプターの損傷はキミだって見れば分かるはずだ!キミは友達を見殺しにする気!?」

リンファは文弥の指示に怒りをあらわにした。会ったばかりであろう勝海の事を心配してくれているのが分かる。だが、文弥はそれを聞いた上で敢えて口にした。

「だからこそだ!あの弱りっぷりなら大抵の奴は真っ先に狙ってくる!さっきの聞こえてたと思うが、アポロンに乗ってんのは素人だ。俺達でカバーしないと真っ先にやられちまうんだ!ラプターでアイツが攻撃されない環境を作り出して、アポロンの砲撃で奴等を牽制して、俺等でトドメを刺す。これが現状でベストな作戦なんだよ!」

「だからってカツミを囮にするなんて――――」

「大丈夫だ!アイツはそんなヤワじゃねぇさ。勝海の実力は俺が一番良く知ってる。俺はアイツを信じてるからこそこの役を任せたんだ!」

文弥の発言には力強さが感じられる。
少なくとも、リンファには嘘を吐いているようには感じられなかった。

ふと、勝海の方を見やると、コクピット越しにサムズアップしてみせる勝海の姿があった。リンファは二人を信じようと決心した。

「分かったよ。その代わり無茶だけはしないでよ?その子はまだ修理終わってないんだからね」

「わーってらぁ!お前ら二人はフォロー頼む!」

そう言い残すと、勝海は敵陣の真っ只中に勢い良く飛び込んだ。

「やれやれ、この子は戦い向きじゃないんだけどなぁ・・・・」

そう言いながら武装転送システムを発動し、スナイパーライフルとマシンガンを左右の腕に装備した。遊撃手を任された身としては、どちらも理に適った装備だ。

敵の二機のプルートがラプターに狙いを定め、マシンガンを乱射する。
しかし、損傷によりリミッターが解除され、出力が大幅に向上したラプターにとって、その程度の弾幕を避けることは造作もなかった。

勝海の囮役への抜擢はこれも計算に入れての事だったのだろうか。
だとすれば、バジリスクのパイロットの采配も大したものだとリンファは感心した。

しぶといラプターに気を取られ、苦戦している二機のプルートのうちの一機に大きく迂回して左右に回り込んだ文弥とリンファが側面から攻撃を仕掛ける。ラプターに気を取られすぎて対処の遅れたプルートは、為す術もなく崩れ落ちた。

「野郎、よくも相棒をッ!!」

残った一機がリンファの機体に向けてマシンガンを乱射する。
リンファは即座に回避行動を取ったが、マシンガンの面制圧力と作業用故の運動性の低さが災いし、数発被弾してしまった。
しかし、その時プルートに出来た一瞬の隙を葵は見逃さなかった。

「今だっ!!」

アポロンのキャノン砲がプルートを捉えた。40mmの徹甲弾がプルートの胴体に吸い寄せられ、その装甲を深々とえぐる。

タイタンとリーダー格の機体が慌てて駆け付ける頃には、プルートの機能は完全に停止していた。

「予想外だが結果オーライだ!数は押してる、このまま一気に行くぞ!!」

「「「おう!!」」」

文弥の号令にリンファを含む三人が応える。彼には司令塔としての素質がある。
アポロンのパイロットも初心者にしては筋が良い。勝海も接近戦に関してはプロだ。
リンファはこの三人の能力、そしてチームワークを徐々に信頼し始めていた。

リーダー機に的を絞り、再び左右から攻撃を仕掛ける文弥とリンファ。
しかし、敵の二機はそれを無視し、葵のアポロンの元に向かった。

行く手を阻もうと勝海がブレードを振るい、リーダー機に襲いかかるが、
部下のタイタンがそれを庇ったため、逆に勝海の目論見が阻止されてしまった。

お返しとばかりに左腕に搭載されたスピアを横薙ぎに振るうタイタン。
攻撃の直後で隙だらけのラプターをリミッター解除の効果で無理矢理動かした勝海。敵の大雑把な動きのお陰でどうにか攻撃を躱せたが、その際にラプターの関節部が悲鳴をあげていた。そろそろ限界だろうか。

「クソッ、逃げろ葵!!このままじゃやられちまうぞ!!」

「そんな事言ったって、コイツの歩かせ方なんて知らないわよ!」

葵が文弥から教わっているのはアポロンに備え付けられたキャノンの照準の合わせ方と、撃ち方だけだった。余計な情報を与えて混乱させるよりは、一つの事だけに集中させた方が覚えられるだろうという文弥の判断からだった。

文弥とリンファは依然として指揮官機に攻撃を続けるが、未だに致命打はない。左右から弾幕を張り続けているおかげで命中はしているものの、余程頑丈な装甲らしく、二人で盛大に撃ちまくって尚、装甲を所々剥げさせるのが精一杯だった。葵の乗るアポロンに、敵の指揮官機が迫る。

「俺の手下共を随分かわいがってくれたなオイ。もう無傷で捕まえるのは諦めた。てめぇらまとめて半殺しにして政府に献上してやるよ」

敵のリーダーはそう告げると、胴体と左腕にそれぞれモーニングスターとウィップを装着した。そして、即座に振るわれたウィップはそのまま葵のアポロンを捉え、動きを封じた。

「まずい、このままだとアポロンがやられちゃうよ!どうすれば良い!?」

「クソッ、せめてあの装甲さえ引っ剥がせれば・・・・!!」

「無理だよ、カツミはあっちでタイタンの相手してるし、そもそもあの状態からしてもう限界が近い。それに、作業用のボクの機体じゃそんなパワーは出せないよ!」

リンファのその一言を聞いた瞬間、文弥の脳裏に何かがよぎった。

「今お前さん、その機体は作業用だ、って言ったよな?」

「確かにそう言ったけど・・・・」

「ちと運頼みになるが何とかなるかも知んねぇ、力を貸してくれ!!」

「何か作戦があるんだね?分かった、協力するよ!」

「すまん、助かる。時間がないから簡単に説明するぞ」

文弥は作戦のおおまかな内容をリンファに説明した。そして説明が終わると、敵の指揮官機の方に向き直った。

「まずは俺が時間を稼ぐから、あんたは手はず通り頼む!」

文弥武装転送プログラムを起動し、敵の指揮官機に向けて突進し始めた。指揮官機が身動きの取れないアポロンに対して、今まさにモーニングスターを振り下ろそうとしている前に文弥のバジリスクが立ちはだかり、ヒートクローでワイヤーを切り裂いた。

「来い!俺が相手になってやる!!」

「流石にそろそろうっとおしくなって来たな・・・・まずはお前から片付けるか」

文弥が挑発するまでもなく、指揮官機が文弥のバジリスクに襲いかかる。まずは空いていた右腕に武装を転送し、装着する。

リーダーの男が引き当てた武装はバヨネットだ。そのままバヨネットを正面に構え、バジリスクを串刺しにしようと走りだした。文弥が避けようとしたところに、足元に向かって伸びる何かがバジリスクの脚部を捉えた。

アポロンを捕縛していたはずのウィップである。いつの間に離していたのだろう――――相手がアポロンからウィップを離す瞬間に目を光らせていなかったのは迂闊だった。

足を取られたバジリスクはそのまま派手にすっ転び、そこに指揮官機がマウントを取って銃剣で両腕の関節部をメッタ刺しにし、刺した穴から更に鉛弾を撃ち込んで両腕を破壊した。

「どうやら勝負あったみたいだな、坊主。」

機体の両腕を失い、馬乗りにされて反撃もままならない文弥だったが、彼が覚悟を決めたその時、機体にリンファからの通信が入った。

「お待たせ、準備完了だ!今そっちに行くよ!」

「OK、今だ!!作業機体の底力を見せつけてやれ!!」

文弥はわざと外部スピーカーを使って叫んだ。まさかと思い、振り向く指揮官機。敵が振り向いた瞬間を見計らい、背面のクレーンを射出し、敵機装甲の僅かにひしゃげた箇所に引っ掛け、勢い良く引っ張りあげた。

引き寄せられそうになり、必死で踏ん張る指揮官機を見て、更に出力を上げるリンファ。指揮官機はクレーンのワイヤーを掴み、逆にリンファの機体を引き寄せようとした。だが、引き寄せるどころか、むしろこちらが引っ張られている。おかしい、たかが作業用の機体に何故こんなパワーがあるのか。リーダーの男は訝しんだ。

「ごめんね、高出力エンジンを引き当てるのに時間掛かっちゃった」

「いいって事よ、そっから先はあんたの仕事だ、任せたぜ?」

「うん!ボクとこの子の活躍、しっかり見ててよ?」

リンファは機体のパワー不足を、高出力エンジンを搭載することで解消した。こうすれば敵を一本釣りするか、最低でも引っ掛けた箇所の装甲を剥がすことは出来るだろう。

「チッ、仕方ねぇ・・・・」

このままでは装甲を引き剥がされると判断した敵リーダーは、この綱引きを早々に諦め、引き摺られる方を選んだ。力の抜けた機体が地面をこすりながら、リンファの機体へと引き寄せられる。だが、敵のリーダーもただでは諦めなかった。

破損したモーニングスターの代わりに胴体前面に新たな武装として、パイルバンカーを装着した。引き寄せられている間に杭の装填し、リンファ機に狙いを定めて構える。

引き寄せるクレーンの勢いが付き過ぎて、今からでは回避が間に合わない。これで確実にリンファ機にダメージを与えられる。敵リーダーがほくそ笑んだ。

リンファは機体の上半身を少しだけひねり、機体のセンサー系の密集する胴体左側面で受けた。破損箇所から火花が飛び散り、メインモニタにノイズが走る。しかし、駆動系は生きている。リンファにとっては、駆動系さえ無事ならそれで良かった。

「かかったね!」

リンファ機の左右腕部から伸びるサブアームのマニピュレータ部分が換装され、ドライバーが装着される。左右それぞれの腕部が敵機体をがっしりと掴み、展開されたサブアームが敵機体の装甲のボルトを外し、その場で敵機体の装甲を剥がし始めた。

「何ッ!?まさかコイツ、ハナっからそれが目的で・・・・」

気付いた時には既に手遅れだった。杭はリンファ機に深々と突き刺さっており、抜くのには時間がかかる。そもそも、高出力エンジンを搭載した機体に密着され、あまつさえ胴体を掴まれ固定されているのだ。とても逃げられるような状況ではない。

黙々と敵機体を解体するリンファ機。指揮官機はろくに身動きもできず、用済みになったパイルバンカーをパージして新たな武装を転送しようとしていた。新しい武装が装着される頃には解体ショーは終わっており、増加装甲の殆どを失った敵の指揮官機は貧相にさえ見えた。

「クソ、だったらせめてコイツを倒してあのバジリスクのパイロットだけでも・・・・」

装甲を剥がされ、文字通り丸裸となった敵の指揮官機は、最後に転送したパルスレーザーの砲塔をリンファ機に突き付けた。リンファ機は距離を取り、指揮官機の後ろに回り込むような形で機体を走らせた。当然のように背後を取られまいと動く指揮官機だが、方向転換の際に生じる隙を葵は見逃さず、全神経を極限まで研ぎ澄まし、狙いを定めてありったけの弾丸を叩き込んだ。

「行けぇぇぇぇーーーーーーーーーーッ!!!」

装甲の無い指揮官機に40mm徹甲弾の雨が容赦なく打ち付けられた。
か細い手足が千切れて吹き飛び、火花と金属片を散らしながら宙を舞う。
両腕と両足を失った敵指揮官機は無様に地面に転げ落ち、無防備な胴体を晒した。

「よし、あとはタイタンだけだ!!すまんが二人共、俺の代わりに勝海に加勢してやってくれ」

文弥の言葉に葵とリンファが頷き、勝海の援護に向かおうとした時、流石に三対一では勝ち目がないと判断したのか、タイタンのパイロットから降伏を示す信号が発せられた。
勝海達はタイタンの投降を認め、パイロットを機体から降ろして拘束した。

既に何度も経験してきたはずだった、このネットの世界におけるアームドロイドでの戦い。しかし、ゲームの勝負ではない、明確な敵意を持った相手との初めての戦い――――勝海達は初めて“本物の戦い”を経験し、辛くも勝利を収めたのだ。

※※※

あの戦いから一夜明け、アームドロイドを用いた山賊団は全員隣町の官憲に引き渡された。村を救ってくれた四人のアームドロイド乗りに、村を代表して村長が謝罪と御礼の言葉を述べた。

「君達には本当に済まないことをした。我が身可愛さに我々は君達を売ろうとした。だが君達はそんな我々を助けるために勇敢にも奴等に戦いを挑んだ。その事に関してもはや我々には感謝の言葉もない。我々にできる事は少ないかも知れんが、ささやかな宴の席と、アームドロイドの修理費は用意させて頂こう。リンファ、彼等の機体を完璧に直してやってくれ」

「元よりそのつもりだよ。元々カツミの機体を直すために戻ってきたんだし。ま、直す機体が増えちゃったのはしょうがないよね」

元々の小破に加え、リミッター解除状態で長時間稼働して内装にまで異常をきたしたラプターに、両腕を失い、もはや動く棺桶と化したバジリスク。パイルバンカーの直撃を受け、センサー系の全取っ替えが確定したリンファの機体。

まともに動かせるのは三人で守り切り、損傷を最低限に抑えたアポロンのみだった。リンファはそれぞれの機体を見上げてため息を付いた。

「こりゃあ結構時間掛かりそうだね。悪いけどしばらくはこの村で過ごしてもらうよ?」

「ま、悪くねぇんじゃねぇの?折角の異世界だし、直るまでゆっくり村を見て回ろうぜ」

リンファの言葉を受け、まるで悪戯っ子が何かを思い付いたような表情で勝海が言った。

「うん、それが良いよ。ボクがこの子達を直してる間は、君達は暇になるだろうしね」

「あんた達ねぇ・・・・ごめんねリンファ、こいつらあなたの事全ッ然考えてなくて」

「良いよ、アオイ。作業は明日からだし、とりあえず今は――――」

そこまで言いかけたところで、リンファは宴の準備を済ませた村の広場を指差した。 勝海達の視線に気付いたフレンダが、手を振って呼んでいる。

「――――皆で宴を楽しもうよ。ね?」

四人は広場へと向い、歌い、踊り、食らい、夜通し宴を楽しんだ。