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第四話

勝海達がトアル村で機体の修理を受けている頃、彼と対戦した男は、片腕を失ったコマンド・ブル に乗り、トアル村の南西に位置する港町・トーデの郊外に来ていた。

男の名は神宮寺 礼。この世界に来る前はアーケードゲーム『Armed Warfare』のプレイヤー であり、少なくとも勝海達の居る地区では最強の腕前を持っていた。

人に干渉されるのを好まず、雑誌にも顔が載らないため、彼の名前だけが知られその他の 一切の情報が謎に包まれていた。尤も、最近はゲームセンターにさえ顔を出さないので徐々に忘れられ始めていたのだが。

町の入口付近に「町中へのアームドロイドでの乗り入れ禁止」という立て札が立てられていた。 仕方なく礼は町の町外れに機体を停めると、修理のできそうな人間の居そうな場所を探した。 街の中心部と思しき所に向けて歩いていると、4人組の男に声をかけられる。

「お前さん、この辺じゃあ見ねぇツラだな。何かを探してるみてぇだが、よけりゃ俺達が案内しようか?」

初対面にもかかわらず馴れ馴れしく話しかけてくる男達に少し苛立ちを覚える礼。 しかし、ここは素直に案内を受けたほうがいいと判断し、彼等の提案を受け入れた。
「・・・・アームドロイドを修理できる人間を探している」

「そうかそうか、なら俺等が案内してやるよ。ついてきな」

男達が一瞬、歪んだ笑みを浮かべたのを礼は見逃さなかった。まるで獲物が罠にかかるのを 待ち構えているかのような、そんな笑みだった。彼等の狙いまでは分かりかねるが、どうせ碌な事ではないであろう事はすぐに察しがついた。だからと言って別段何か行動を起こす訳でもなく、黙って男達について行った。今行動を起こしても相手に感付かれるだけで何もメリットはない。

やがて、町外れの倉庫のような場所に連れてこられた。倉庫内はそれほど広くなく、アームドロイド が1機通れる程度の大きさの扉があり、所々に土嚢が積まれている。積まれ方は箇所によって様々で、跨いで通れる程度の高さの所もあれば、アームドロイドと同程度の高さまで積まれ、ちょっとしたアスレチックの様相を呈している所もある。

倉庫の隅には右手にショットガンを持ったグリフォン――――それも既に誰かが乗っている ――――が1機、直立していた。

礼が中に入った瞬間、外側から鍵をかけられた。グリフォンの外部スピーカーから礼に向かって 男のダミ声が発せられる。

「お前、異世界の人間だな?今政府がお前らみたいなのを血眼になって探してる。連れてけば 報奨金ががっぽり貰えるんでな、大人しくついて来てもらうぜ」

「・・・・何故異世界の人間を探している」

「そこまでは知らねぇよ。大事なのは、お前が俺達の飯の種だって事だ。運がなかったな、小僧」

礼の声や表情からは動揺した様子を見受けられなかった事から、薄々感づかれていたで あろう事を悟ったグリフォンのパイロット。だが、そんな事は正直どうでも良かった。それよりも、 生身の状態でアームドロイドに対峙していながら、表情一つ変えない事それ自体に疑問を 感じていた。単なる怖いもの知らずの愚か者か、あるいは何か打開策があるのか・・・・

外側から鍵を掛けた一人を除けば、敵は生身の人間が三人、そしてアームドロイドが一機。 礼は周囲を一通り見回し、急に走り始めた。生身の三人が慌てて追いかけ始める。それに 一拍遅れる形で、グリフォンも礼を追いかける。

不規則に走り回り、三人の男の追跡を巧妙にかいくぐる礼。そして、礼が高く積まれた土嚢の 上に登った際に、男の一人が声を上げた。

「土嚢の上に行ったぞ!二手に分かれて行くぞ、お前は左側からだ!!」

他の男達も頷き、土嚢の左右から登り、礼を追い詰めようとするが、礼は土嚢を持ち上げ、 まずは左側から迫ってきた一人の上に放り投げた。土嚢は男の顔面に直撃し、男は土嚢と共に 地面に落下した。

その隙を伺い、残った二人が反対側から襲いかかるが、一人目を突き飛ばし、勢い良く落下して 来たのを避けようとして体を横に逸らした二人目の足元に向けて再び土嚢を放り投げる。 足元に土嚢が直撃した二人目もバランスを崩して転げ落ちた。

「野郎ッ、舐めた真似しやがって!! ただで済むと思うなよッ!!」

グリフォンのパイロットがスピーカー越しに罵声を浴びせながら突進してきた。 重量級でありながら直線距離の移動に限れば軽量級と同等かそれ以上のスピードを誇る グリフォンだが、それは戦場が開けた場所である場合の話だ。

この機体の移動力の要である大型のブースターは使用時の方向転換ができず、 こういった場所で使えば壁に激突は必至である。別の機体を用意すれば良さそうなものだが、 生憎とこの男達が所有する機体は戦場に散った名も無き兵士から拝借したこのグリフォンだけ であり、それ以外のアームドロイドは機体どころか購入する資金すら持ち合わせてはいなかった。

それでも、アームドロイドと武器があれば生身の人間なら大抵は恐れ慄き、要求を素直に 受け入れるだろうと高を括っていた。自分達の詰めの甘さが招いた事態である。

こうして、彼等はグリフォン最大の武器である「重量級で軽量級並みの移動スピード」を自らの 手で封じ、この鈍重な機体で素早い生身の人間と追いかけっこをしなければならなくなった。 短所を補う生身の人間も、全員気絶していて使いものにならない。

勿論ここで機体を降りるような愚かな真似はしない。この機体を奪われれば立場は逆転するのは 火を見るより明らかである。それに自分を拉致しようとした連中を生かしておく程相手もお人好し ではあるまい。

グリフォンのパイロットは右腕のマニピュレーターを伸ばし、礼に掴みかかった。 礼は土嚢に隠れてそれをやり過ごす。グリフォンが再び彼を捕らえようと回り込む頃には 既に反対側から逃げていた。生かして捕らえなければならない以上、武装を使う訳にはいかない。

こうして、礼とグリフォンの鬼ごっこがはじまった。礼はグリフォンが追いかけられる程度の速さを 維持しつつ、土嚢のある箇所の周辺でジグザグ移動やターンを繰り返し、時にフェイントを 織り交ぜ、グリフォンを翻弄した。冷静だったグリフォンのパイロットにも徐々に苛立ちが募り始める。

そして、再び礼が高く積まれた土嚢の上によじ登った時、グリフォンのパイロットは ショットガンを構えた。礼を狙うのではない、足場さえ崩せば彼を捕まえる事が可能だろう。

「さぁ観念しろ、鬼ごっこはここまでだ!!」

トリガーに指を掛けた瞬間、機体が大きくバランスを崩した――――土嚢に足を引っ掛けたのだ。 そしてあらぬ方向へと放たれた散弾が倉庫の壁に直撃し、そこに穿たれた穴は人一人が通るには 十分な広さだった。グリフォンも転倒しており、脱出するなら今が最大のチャンスだ。

礼は記憶を頼りにきた道を逆戻りし、コマンド・ブルを停めてある場所までたどり着いた。 機体に乗り込んだところで、相手のグリフォンも追いついてきた。空いていた左手には アサルトライフルが、背中には追加ブースターが装備されており、いつでも戦える体制を 整えていた。

コマンド・ブルに搭載されている武装は左腕のトンファーのみ。しかも、右腕は勝海との 戦闘で失ってそれっきりだ。だが、それを差し引いても十分に勝算はある。礼は新たな武装 を転送し、機体背面に装着した。新しくコマンド・ブルに搭載されたのは、オートキャノンだ。

狭い戦場という枷から解き放たれたグリフォンはその能力を存分に振るった。自身の能力に加え、 追加ブースターを装備したことによって、更にそのスピードを増していた。

礼はコマンド・ブルを後退させながらオートキャノンを2〜3発、グリフォンに向けて撃った。 足の装甲に受け、多少減速はしたものの、あまり来にした様子もなく突っ込んでくる。 「相手の攻撃を全て受け切りながら突撃する」という選択肢が取れるあたり、この機体 ならではの強みが伺える。

オートキャノンの砲撃をブレーキにコマンド・ブルをアサルトライフルの射程内に収めた 状態で停止し、そのままコマンド・ブルに向けて連射する。礼はとっさに機体の上半身を ひねり、オートキャノンを犠牲にすることで何とか本体へのダメージを防いだ。

礼はこのままトンファーを持っていても意味は無いと判断し、トンファーを破棄した。
新しく武装を転送しようにも、敵の目の前ではそんな暇はないだろう。礼は遮蔽物が多そうな 場所を探し、一旦この場を離脱しようとした。幸い、近くに森林地帯があったのでそこに 逃げ込めれば多少は時間が稼げるかもしれないが、しかし、グリフォンも黙ってはいない。

「また倉庫みたいな状況で戦おうって魂胆か、そうはいかねぇ!」

そう言うとグリフォンのパイロットは胴体前面に武装を転送し、装着した。 新たな武装は火炎放射器だ。

「ハハハ、死なない程度に蒸し焼きにしてやるよ!!」

そう言いながらグリフォンのパイロットは森の木々に向けて火を放った。火は瞬く間に周囲の 木々に燃え移り、コマンド・ブルの行く手を阻んだ。しかし、完全に逃げ道を塞がれた訳ではない。

礼は進路を変え、街道沿いに走り出した。グリフォンもブースターを使って追いかける。 すぐに追いつかれるのは目に見えているので、追いつかれそうなタイミングで急激な方向転換 をする。倉庫内でやっていた事と同じである。

しかし、少しの間距離を稼ぐことができても、またすぐに追いつかれている。そして、 追いつかれる度に方向転換を繰り返す。その度にグリフォンも両足でブレーキを掛け、 ブースターの出力を一旦弱め、方向転換をしてから再びブースターの出力を戻す、という 行為を半ば作業のように繰り返していた。

その間、何度か撃ったショットガンはじわじわとコマンド・ブルの装甲を削り取ってはいたものの、 致命傷には程遠く、かすり傷程度に装甲部分を凹ませるのが精々であった。

そして、一連の行為を繰り返した回数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなり始めた頃、グリフォンの機体に 変化が起こった。脚部から軋むような音が聞こえ始めたのだ。

グリフォン自体、重装甲の鈍重な機体をブースターによる移動で機動力をカバーするように 設計されている。しかし、ブースターによる移動は真正面に直進する場合しか使えず、 方向転換には一度減速した後、歩行による方向転換をしなければならない。つまり、 グリフォンの脚部とは、メインの移動手段として用いる事は最初から想定されていないのだ。

それが脚部を使って移動せざるを得ない状況に長時間置かれ、オートキャノンの砲撃に晒され、更に急激な方向転換などで一定期間に何度も脚部を酷使したため、激しく消耗し金属疲労を 起こしていた。

「クソッ!奴め、最初からこれが狙いだったのか!!」

極力脚部に負担を掛けまいとブースターの出力を落とした時、礼はスナイパーライフルを転送し、 左腕に装備した。脚部に狙いを定めてトリガーを引くと、その弾丸はオートキャノンの砲撃で 凹んだ装甲に寸分の狂いもなく叩き込まれ、装甲の破片や駆動装置の残骸を撒き散らしながら 脚部を貫いた。

グリフォンはその巨体を支える脚部を失い、その場に倒れ伏した。 もはや立ち上がる事さえ出来ず、後はただ殺されるのを待つだけだった。

グリフォンのコクピットがこじ開けられ、パイロットは死を覚悟した。

「貴様を殺しはしない。この世界にも官憲はいるのだろう?」

その後夜が明け、礼から武器等を取り上げられ、男達は町の官憲に引き渡された。 そして、礼は報奨金を受け取り、機体の修理を請け負ってくれる工房を紹介してもらった。 役人からの口添えもあり、修理は引き受けて貰えた。修理には丸一日かかるとの事で、報酬から 宿泊費用を捻出し、宿に泊まることにした。

今回の事件でこの世界について少し理解した礼。この世界には元いた世界同様に人間が存在し、アームドロイド周りの事を除けば、文明の発達の度合いは中世に相当する。

司法・行政もそれなりで、この規模の街ならばインフラの整備も行き届いている。尤も、 ここ以外の場所を知らないので他がどうなっているのかは分からないが。

この世界で生きるため、今後の方針を考える礼。

自分を拉致しようとしたあの男たちの話では外の世界から来た人間を狙っているらしいが、 目的は何であろうか?技術的なことが目的であれば、それを提供する代わりに何らかの形で 生活保障を受けることが出来そうなものだが。

しばらく考えてみたが、やはりこの世界に関する情報が少なすぎると感じた礼は、 外に出て少し情報を集めることにした。礼は報奨金を持って服屋へと向かい、まずは この世界の一般的な衣服を購入し、それに着替えた。最初に来た時点では仕方ないにしても、 あの男達の言葉を鵜呑みにするなら、異世界人の格好で出歩くのはまずい。

宿に泊まるまではあの四人組のうちの一人から奪った上着で何とかごまかしていたが、 今後はそうはいくまい。どのみち機体は修理中で、他にできる事もないのだ。ならば 今のうちにここで生きていくのに必要な知識を仕入れておくのが妥当だろうと礼は判断した。 技術提供による交渉を前提としても、この世界を知っておくことは決して無駄にはならない。

歩いて街の様子を見てみる。特別変わったことがある訳ではないが、気のせいか、街全体が ピリピリしているように感じる。昨日の件が関係あるかどうかまでは分からないが、どうにも きな臭い何かがあるのは確かなようだ。戦争でも起こるのだろうか・・・・?

つい最近ここのたどり着いた旅人を装い、それとなく町の人々に話を聞いて、情報を集めてみた 結果、やはり戦争が起ころうとしているのは間違いないようだ。この世界で生きていくには アームドロイドに乗って仕官するのが現状では一番合理的なのだろう。しかし、この世界の パイロットの実力がどれほどのものなのか判別できなければ、最悪、自分の実力以上にこの 世界のパイロットが強ければ門前払いされる可能性もある。

とはいえ、まだそうと決まった訳ではない。昨日戦った連中の実力と同等か、それに毛が生えた 程度の者ばかりなら自分の腕は十分売り込むに値する。強いアームドロイドのパイロットの情報 を探るため、日が暮れてから酒場に向かった。夕暮れ時の酒場は相応の賑わいを見せており、 荒くれ者達が酒を煽り、恐らくは脚色したであろう今日の戦果を自慢げに語ったり、酔っ払い 同士がつかみ合いの喧嘩をしていたりとまるで外とは逆の喧騒に満ちた世界だった。

礼は中に入るなりカウンター席に座り、テーブルの上に金貨を並べる。

「この国で一番強いアームドロイド乗りを知りたい」

「なんだあんた、旅のモンか?それにしたっていきなりアームドロイド乗りの情報よこせたぁ、 ずいぶんご機嫌だなオイ」

「しかもコイツ、まだガキだぜ?ここはお前の来る所じゃねぇ、分かったらさっさと帰ってママの おっぱいでもしゃぶってな!!」

酒場にいた荒くれ者どもの笑い声が酒場中に響き渡る。だが、礼は全く気にする様子もない。 その様子を見て舐められたと感じたのか、屈強な大男が礼に掴みかかろうとしたが――――

「おいてめぇ!聞こえなかったのか?さっさと帰れっつっt――――!?」

――――礼はそれを払いのけ、最低限の動きで懐に潜り込み、喉元に短剣を突き付けた。

酒場の中はざわつき、その視線は礼に釘付けとなっていた。

「話してもらえるか?」

「・・・・この国に限って言やぁ、王国騎士団の団長ジェイク・ブレイドが最強のアームドロイド乗りだ」

「機体と戦闘の傾向は?」

「機体はケルベロスだったと聞いている。だが戦い方までは俺も知らねぇ、そもそも門外漢だしな」

「そうか・・・・」

礼はカウンター席に金貨を置くと、早々に宿屋へと戻った。<br>
そして次の朝、コマンド・ブルの修理が完了したとの知らせを受けて、工房に機体を取りに行く。

「王国騎士団に入りたいんだが、どうしたら良い?」

「騎士団!?お前さん、仕官するのかい?いや、それにしたっていきなり騎士団はなかろうよ・・・・ 騎士ってなァ代々世襲って相場が決まっててな、一般人が騎士になるにはよっぽど 強くなきゃあ・・・・」

「強ければ、なれるのか?」
<br> 「あ、ああ・・・・過去に平民から騎士に成り上がった例があってな・・・・でも、お前さんは・・・・」

工房の親父がなにか言いかけて止めた。特に気にする様子もなく、コマンド・ブルの右腕の 動作チェックをする礼。

「動作チェック、問題なし・・・・世話になったな」

そう言うと、礼は工房の親父に代金を渡した。

「そうか、頑張れよ。あと、こいつは城に行くまでの地図だ。まずは一般兵として志願して、 そこでいくつもの武勲を立てればあんたも騎士になれると思う。まぁ頑張ってくれ」

礼は頷くと、キャノピーを閉じ、機体を発進させて地図に示された城へと向かう。 機体を半日ほど歩かせると、高い丘の上に佇む石造りの大きな城が見えた。 城門の前まで進むと、門番の兵士と警備のアームドロイドが呼びかける。

「止まれ!ここはトリマ城だ、許可のないものの立ち入りは禁止されている! 機体を降りて姿を現せ!!」

礼はキャノピーを開け、兵士たちの前に降り立った。

「兵士として志願しに来た」

「何だ入隊希望者かぁ?心意気は買うがな、こういう時は事前に連絡を寄越すのが筋って m――――」

「僕は異世界の人間だ」

『――――ッ!?何だと!?』

礼の言葉を聞いて、兵士達の表情が露骨に変わった。

「僕が知る限りの異世界の情報を提供する。代わりに軍に入隊させてくれ、と言っている」

兵士達は小声で何か話し合った後、門番の兵士は城内へと入っていった。

「ちょっとそこで待ってろ、すぐに上の者を呼んでくる」

しばらくした後、彼等の上官と思しき甲冑に身を包んだガタイの良い男が現れた。先程の 門番も一緒だ。

「門番から話は聞いた。君が異世界人の入隊志願者だな?とりあえず中に入れ、詳しい話を 聞きたい」

城の中に通される礼。城内には綺羅びやかな装飾などはなく、「質実剛健」という言葉が ぴったり当てはまるような、無骨ではあるが、機能美を備えたデザインとなっている。

城の奥の、広い部屋に礼は通された。

「申し遅れたが、私の名はジェイクだ。このトリマ王国騎士団の団長をやらせてもらっている。 では、話を聞かせてもらおうか。君は何故、異世界の人間でありながら我々の軍に入ろうと 思ったんだ?そもそも、本当に君は異世界の人間なのか?」

酒場で聞いた名前を思い出し、目の前の男がこの国最強のアームドロイド乗りである事を、 礼は改めて感じ取る。

そして、聞きたいことは山程あったが、それを絞って重要な事から聞き出そうとするジェイク。 礼は、ここに来るまでの経緯と、礼を拉致しようとした連中が言っていた事、それに関し 情報を提供する代わりに最低限の生活保障と、機体の整備に関する保証を求める旨を 率直に話した。

「なるほど、話はだいたい分かった。こちらとしてもアームドロイド乗りの兵士が増えるのは 好ましい限りだ。それに、異世界に関する情報まで貰えるなら、こちらとしても願ったり 叶ったりだ」

そして、ジェイクは席を立つと、礼についてくるように促した。黙って後に続く礼。 着いた場所は、古代ローマ時代の闘技場・コロッセウムのような外観の、しかし 人間用のよりも遥かに広い場所であった。これがアームドロイドの戦闘訓練用に作られた場所で ある事は明らかである。

「君と私の機体をここに運び込んである。何、入団試験なんてものは我が国の軍にはない。 久々に腕に覚えのありそうな人材が来たもんでな。ちょっと君を試してみたくなった」

そう言うと、ジェイクは運び込まれてきたケルベロスに乗り込んだ。胴体に火炎放射器、左腕に プラズマスタッフを装備している。装備からして近距離戦仕様、それも手数を重視した構成で、 それに固定武装の追撃用ミサイルで火力の底上げが成されている。狙いは読まれやすいが、 良い武装のチョイスだと礼は素直に感心した。

「・・・・そういえばまだ名前を聞いていなかったな」

思い出したように名前を尋ねる。互いの名前を知っておくのは、決闘前の礼儀か。

「・・・・礼。神宮寺 礼です。」

静かに名乗りを上げる礼。その声から内に秘めたる闘志が覇気となって表れていた。

武装転送システムを起動させる礼。引き当てたミサイルを装備し、ジェイクのケルベロスめがけて 3発のミサイルが煙をたなびかせ、ケルベロスに炸裂する。ケルベロスの周囲を爆風が包む。

「いいねぇ!やってくれるじゃねぇか!こいつぁ思わぬ拾いモンだ!!」

ジェイクの雰囲気が変わった。

厳かな雰囲気を纏った今までとは打って変わって、外部スピーカーから豪快な歓喜の声が 響いた。どうやらこれがジェイク本来の性格のようだ。

「今度はこっちの番だッ!!行くぜ!!」

ジェイクが反撃に出る。舞い上がる土煙を吹き飛ばしながら、プラズマスタッフの先から レーザーが放たれる。レーザーはコマンド・ブルの胴体に直撃し、怯んだところに時間差で 放たれたミサイルが降り注ぐ。ミサイルは命中箇所こそバラけたが、確実にコマンド・ブルに ダメージを蓄積させた。

今がチャンスとばかりに攻勢に出るジェイク。コマンド・ブルとの距離を一気に詰め、 火炎放射器をお見舞いした。コマンド・ブルに炎が浴びせかけられ、再び追撃のミサイルが 襲いかかる。光熱の炎に、ミサイルの爆炎が加わり、コマンド・ブルの周囲は地獄のような様相を 呈していた。

すると、炎の中から一条のレーザー光がケルベロスに向かって飛来した。間一髪で避ける ケルベロス。炎の中から這い出したコマンド・ブルは右腕に荷電粒子砲、胴体にシールドを 装備し、炎とミサイルによる熱ダメージを最小限に抑えていた。

「危ねぇ、油断してたらやられてたぜ・・・・だがこういうのは嫌いじゃねぇ!こっからが本番だ!」

凄まじい高熱により溶けて変形し、もはや原型を留めていないシールドを投げ捨て、 礼は新たな武装を転送する。そうはさせるかとジェイクが再びプラズマスタッフのレーザーで 攻撃するが、荷電粒子砲を盾代わりにして難を逃れる。そして、転送されたマシンガンを 乱射し、ケルベロスのすべての武装を破壊した。

ジェイクは再び距離を取ろうと後方へと移動する。礼はマシンガンで弾幕を張りながらジェイクの ケルベロスを追いかける。転送前の武装を破壊しようとしたようだが、ジェイクは自機を盾とし、 身を呈して武装を守った。お陰で機体はもうボロボロだが、反撃の糸口は掴んだ。互いの 機体は既にボロボロだ。この一撃を届かせた方が勝利を手にするのだ。

ジェイクの装備はスピアだ。白兵戦用の武器としてリーチが長く、扱いやすいという利点があるが、 相手に向かって投げる事で、一回限りだが射撃武装として使うこともできる。

再び離れようとジェイクのケルベロスが動き出す。礼のコマンド・ブル先ほどと同じように マシンガンを乱射しながら接近を試みる。が、ケルベロスはスピアを投擲し、それに続いて ミサイルが放たれた。マシンガンの弾幕はミサイルの爆風によって打ち消され、その爆風の 中から勢いをそのままに槍が飛んでくる。礼はとっさにマシンガンでこれを受けた。

互いに手銛の武器は無くなった。爆風で互いが見えないのは双方にとって幸いであろう。 この僅かの猶予の間に新たな武装を転送し、それが真に最後の一撃となり得るだろう。

両者ともに転送されたのはリボルバーカノンだった。互いに武装が見えていれば、 ジェイクはこう言っていただろう。

「こいつぁ偶然にしちゃ出来過ぎだ。だが、こういうのは嫌いじゃねぇ」と。

そして、爆風が、晴れる――――

相手の姿が見えた瞬間、二機はほぼ同時にトリガーを引いた。
しかし、僅かに礼の方が早かったようだ。

ケルベロスの胴体に礼の放った弾丸が到達する頃、コマンド・ブルは僅かに胴体を捻り、 辛うじて回避に成功していた。

勝利の女神は、礼に微笑んだようだ。

ジェイクが倒れた機体から降りたのを確認すると、礼もキャノピーを開け、ジェイクの元に向かう。

「素晴らしい戦いだったよ。君程の実力で一般兵はないだろう。今日から君は我が騎士団の 一員だ。私は決めたぞ!HAHAHAHA」

負けて尚相手を認め、豪快に笑うジェイク。実力もさることながら、その器の大きさもまた、 彼を騎士団の団長たらしめる要因の一つなのだろうと礼は思った。

「ま、そういう訳だから。これからもよろしく頼む、レイ」

礼に向かって手を差し出すジェイク。

「こちらこそ、宜しくお願いします。」

礼もジェイクに手を差し出し、二人は固く握手を交わした。